第四章
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に問うた。
「ヴォルフガングなのね、その声は」
「うん、そうだよ!」
間違いなくヴォルフガングの声だった。その声がエヴァゼリンの耳にはっきりと聞こえた。間違えようのない声だった。
「約束、覚えてるよね!」
「ええ、勿論よ!」
エヴァゼリンは彼の声に応えた。
「じゃあ今からそちらに行くわ!」
「うん、待ってるから!」
またヴォルフガングの声がした。
「ここで!」
「ええ!」
エヴァゼリンはそのまま駆けて行く。門を出たところに彼がいた。彼は満面に笑みを浮かべてその手にあの青紫の箱を持っている。それこそが。
だがエヴァゼリンはそれよりもまず彼を抱き締めた。そうして言うのだった。
「本当なのね、これって」
「だから言ってたじゃない」
ヴォルフガングは自分に抱きついてきたエヴァゼリンを抱き締め返して言うのだった。その手に箱を持ちながら。それは忘れるわけにはいかなかった。
「きっとこなるって」
「信じられなかったわ」
それでも今は信じられた。心から。
「こんなことになるなんて」
「僕は信じていたよ」
ヴォルフガングは笑顔で応える。
「きっとこうなるって。ドイツが」
「そうなの」
「それでね」
彼女を一旦離す。そうしてその目を見詰めながら言う。その黒い神秘的な瞳を。
「わかってるよね」
「ええ、勿論よ」
泣いていた。泣きながら笑って答えるのだった。
「僕達も。一緒にね」
「ええ、これから宜しく」
笑顔でヴォルフガングを見上げて言う。年下なのに背は自分よりも大きい。そのせいか頼もしいものさえ感じて言うのだった。
「そしてこれからもずっと」
「うん、ずっとね」
二人はそこまで言い合うとまた抱き合った。開かれた夜の門の後ろは光で照らされていた。それは訪れた自由と幸福を照らす光だった。二人はその光を浴びながら抱き合うのだった。
壁 完
2007・12・6
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