第二章
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。霧生奈月じゃなくて」
「そうでしたよね。山田奈月でしたよね」
彼はそれもわかっていたのだ。
「そちらが本名でしたよね」
「はい、そうです」
彼女、奈月も孝司のその言葉に頷くのであった。
「それも御存知なんですか」
「だからファンなんですよ」
孝司はまた笑って彼女に言うのだった。
「霧生奈月さん、いえ山田奈月さんの」
「けれど私はもう芸能界にはいないんですよ」
彼女は断るようにして彼に告げた。
「それでファンなんて」
「どうして引退されたんですか?」
彼は不意にそれを問うのだった。それもかなりダイレクトに。
「これからどんどん人気が出た筈なのに」
「中学校に入学するんで」
孝司のその問いに対してこう答えてきたのだった。
「それでなんです」
「中学校に入学するから?」
「入学する中学校が厳しい学校でして」
それもまた孝司に告げた。確かにそうした学校もある。理由としては充分なものであった。
「だからだったんです」
「それで引退されたんですか」
「正直引退しても未練はないです」
彼女はこうも言った。
「芸能界には憧れていましたし今も嫌いではないですけれど」
「あれですか?もっと好きなものがあるとか」
「そうです。それが今です」
今いる時間がそうだと。言うのであった。
「今は充分楽しいですから。それで」
「いいんですね」
「すいません。だから」
「だったらそれでいいです」
ここでの孝司の言葉は奈月にとっては思いも寄らないものであった。ここで是非復帰してくれと言ってくるものだと思っていたのだ。だがそうではなかったのだ。
「それでいいです」
「いいんですか」
奈月は意外といったその感情を隠せないまま応えた。
「それで」
「だって。芸能界にはもう興味がないんですよね」
「はい」
それをまた告げるのであった。
「そうです。小学校の時だけでもう」
「だったらいいです。もうそれでいいじゃないですか」
孝司の顔が穏やかな笑みになっていた。その笑みで奈月に対してまた言うのであった。
「それはそれで」
「ですか」
「僕はそうなんですけれどね」
「もう私はチャイドルじゃないのに」
古い言葉だがそれでもあえてこれを使うのであった。これは奈月が実際にこう呼ばれていたからである。それを使ったのである。
「それでも」
「僕がファンだったのはアイドルだったからじゃないんですよ」
孝司の言葉はこうであった。
「アイドルだったからじゃなくて」
「そうなんですよ。ほら」
渋谷の街には多くの制服の女の子達がいる。日本にいていいことはかなりの割合でその制服の女の子達が可愛いということである。奈月もまたその一人である。
「アイドルっていっても色々いるじゃないですか」
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