第十六話 脇役根性
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第十六話
照明係の次は音響係。
権城は仕事を覚え始めていた。
「もっとこうした方が良くない?」なんて事も言えるくらいには、劇の展開と、それら舞台効果のマッチングを感じる感受性は磨かれていた。
本はせいぜい漫画か雑誌しか読まない権城からすれば、文化的素養もかなり身についてきたと言えるだろう。
「…………」
結局、権城を模したはずの主人公を演じているのは姿だった。権城と姿の競合になったが、抜群の演技力とルックスを持つ姿が満場一致で今回の主役の座を勝ち取った。その結果には権城も納得している。まさか、最初から姿に勝てるなんて思ってなんかいなかった。
姿が、心の底まで劇に入り込んで演じているのを見ると、音響をしている権城までもが引き込まれて、仕事を忘れそうになる。
観客と一緒に拍手だってしたい気分だ。
そんな自分に気づいた権城は、数日前のグランドでの出来事を思い出した。
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「権城君、君ね、そんなに遠慮しなくて良いんだよ。」
キャッチャーの格好をした紗理奈が権城に言った。権城は、思ってもみなかった事を言われて困惑した。
「さっき品田さんがブルペンのそばでキャッチボールしてた時、気にしてたよね?」
「え、まぁ」
「あの時、自分がブルペン使ってて良いんだろうかとか、思わなかった?」
言われてみてギクリとした。
確かに、そう思った所はあったかもしれない。
紅緒はエース。それに比べて、自分は野手兼任の2番手投手。紅緒が投げたがっているのに、自分がブルペンと、そして正捕手の紗理奈を占領していて良いのかと思っていた。
「今私は、君の球を受けたいんだし、今は君の投げる時間なんだから。気兼ねせずに、投げる事にだけ集中しないと。ボールに気持ち入ってなかったよ」
「すんません」
紗理奈に窘められた事よりも、無意識的に自分が紅緒に対して小さくなっていた事の方が、権城はショックだった。
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(そういや、高校入ってから、バッティングも長打がめっきり減ったな)
権城は音響コンソールのスイッチを切り替えながら、ぼんやりと思った。あの入学早々の勝負に負けて以降、気がつけば、紅緒の影に隠れている自分が居た。投げては紅緒の2番手、打っては紅緒につなぐバッティング。
(俺、そんなに脇役根性ついた奴だったっけ?)
権城は、結局自分が勝ち取れなかった“主役”を演じる姿を眺めながら、心の中でひとりごちていた。
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