第一章
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第一章
アイシャドー
「あれ、それって」
「ええ、そうよ」
女の子達が学校のトイレの中で明るくきゃっきゃっと話をしている。鏡の前で話すことの内容はもう一つしかないものであり今それを話していた。
「ルージュね。変えたのよ」
「へえ、薔薇色のルージュね」
「いいじゃない」
「そうでしょ。気に入ってすぐに買ったのよ」
その薔薇色のルージュを持っている女の子は得意そうに笑って皆に話している。トイレの中は女の子独特の匂いと活気が漂っていた。
「いいと思ってね」
「そうよね。やっぱりルージュって色が大事だからね」
「そうそう」
女の子達は自分達がそれぞれ持っているルージュを見ながらまた話す。
「映えないとね。どうしようもないから」
「薔薇色が一番かしら」
「あとスカーレッドじゃない?」
一人がここで言った。
「オレンジもいいけれど」
「オレンジもいいの」
「あと爪もね」
話はルージュに留まらずマニキュアにも及んだ。皆高校生なので部活もある為か爪は伸ばしていない。けれどそれぞれ色は凝っていた。
「オレンジもいいのよ」
「オレンジねえ」
「それちょっと派手過ぎない?」
他の女の子達はオレンジという色には今一つ納得しないようであった。
「何ていうかね。オレンジって」
「どうなのよ」
「それがいいのよ」
しかしその娘は言うのだった。
「目立つのがね。かえってね」
「そんなにいいの」
「目立たないと意味がないじゃない」
その娘は力説してきた。
「特に彼氏にはわからないとね。違う?」
「ああ、それはその通りよ」
「彼氏にわからないとね」
皆このことには頷くのだった。何故化粧するかというとやはり誰かに見てもらいたいからである。そしてその第一の対象は最早決まっているのである。
「そうじゃなければお化粧しても意味は半分以上ないしね」
「そうそう。気付いてもらわないと」
「だからよ。ルージュもマニキュアも大事なのよ」
このことがあらためて話されるのだった。
「その色がね」
「ファンデーションだってね」
当然それもしているのだった。ファンデーションは最早基本であった。
「その為だしね」
「っていうか努力わかって欲しくない?」
「同感」
そして話はこうしたふうにもなるのだった。自然に。
「努力がわかってもらえないとね、最悪彼氏にはね」
「けれどねえ」
しかしここで鏡の前にいる女の子全員の顔がぼやいたものになるのだった。
「わかってもらえてる?相手に」
「さあ」
「どうかしら」
このことに対しては女の子達はかなり疑問符を浮かべてしまう他なかった。
「それはね。何かどうにも」
「怪しいわよね」
「かなりね」
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