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氷結鏡界のエデン 〜記憶を失ったもう一人の・・・〜
楽園幻想
第一章 『風の生まれる街で』
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最後
最初
ら藍色のコートを取り出し、軽く
羽織
(
はお
)
る。黒のインナーシャツと白のスカートは
仮眠
(
かみん
)
時からそのままになっている。
……もう、せっかくの
休憩
(
きゅうけい
)
時間だったのに。
軽くため息を尽きながら、アリスは休憩室を後にいた。
カフェテラス『二羽の
白鳥
(
アルビレオ
)
』ーー第二居住区の大通りに面した
喫茶店
(
きっさてん
)
だ。
喫茶店とは名ばかりで紅茶の質は並程度、かわりに手作りケーキや日替わりの軽食が人気という変わった特徴を持った店である。
「料理長、ちょっといい?」
ユトを外に待たせ、アリスは裏口から
厨房
(
ちゅうぼう
)
の扉を開けた。自動化された食器洗い機が忙しなく
稼働
(
かどう
)
する音に混じって、紅茶の香りがふわりと漂ってくる。
「あら、アリスちゃん。もしかして自主的なお手伝い?」
昼食時という
繁忙期
(
ピーク
)
を過ぎた厨房で金髪の長髪を頭の高い位置でまとめた女性が振り返った。ただし、包丁片手に野菜を千切りにする手は休めぬままで。
「やってもいいんだけどね?エリが機械を暴走させる前に止めなきゃいけないから。ちょっと待っててね」
「それは、大変ね。それはそうと、アリスちゃんこっちに来て?」
包丁をまな板の上に起き、料理長が手を洗いアリスの髪をセットする。
実際には、料理長では無く店長なのだが当人の趣味で料理長と呼ばれた方がうれしいらしい。
「できた♪アリスちゃん、休憩時間が終わるまでにできれば帰って来てね。シェルティスを使わなきゃいけないから」
「兄さんに任せたいような、後が怖いな。ま、帰ってきたら手伝いますね」
料理長のすぐ後ろを見つめてこっそりため息。
厨房に山のように積んである食材たち。ここの店でメイド兼料理人の
仕事
(
アルバイト
)
をして2年になるアリスさえ、一日とて同じ組み合わせの食材を見たことはなかった。
「あら、ありがと。ふふっ、期待してるわね」
目線はこちらにむけたまま、今度は果物の飾り切りを始める彼女。しかし、実際、店にやってくる客の大半が彼女の料理を楽しみにしているのだから仕方あるまい。客の中には、アリスのメイド姿を期待して来ている客もいるのだがアリスはそれを知らない。
「料理長、夕食のメニューは?」
「ムームー貝の灼熱ステーキに、ジルスス草の絶叫(絶叫)スープ」
「
今更
(
いまさら
)
私が言うのもなんだけど、それって猛毒じゃなかったっけ?」
まな板に載っている巨大なピンク色の渦巻き貝がムームー貝で、茎のいたるところに
棘
(
とげ
)
が生えている真っ赤な食材がジルスス草だろう。
「大丈夫よ、味見はシェルティスにやらせるから」
それを聞いて、さりげなく兄に合掌をした。
「それは冗談として、早くエリエを連れて帰って来てね。
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