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第五章
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第五章

「新入りの娘だよ」
「宜しく御願いします」
 数日後店のスタッフにイタリア風の白い上着に黒いズボンのウェイターと同じ格好の里香が挨拶をしていた。頭を深く下げる。
「花崎里香です」
「花崎さんは暁君と同じ高校生でね」
「僕と同じなんですか」
「そうだよ」
 彼女を皆に紹介する店長はにこにことしてその潤に話す。今彼女は休日の開店前の店の中で皆の前にいるのだ。店の中の椅子はテーブルの上にあげられ暗いままである。
「暁君と同じ学生さんだよ」
「そうなんですか」
「宜しく御願いします」
 ここでは誰にもわからないようにちらりと彼を見ただけの里香だった。今度の挨拶も皆にしたものである。
「そういうことでね。皆宜しく頼むよ」
「はい」
「わかりました」
「特に暁君ね」
 店長はにこりとして彼に声をかけた。
「同じ高校生だし女の子だし。色々と助けてあげてね」
「はい、わかりました」
(これでいいのね)
 こうして店に入ることができた里香は内心呟いていた。これで彼といつも近くにいることができる場所に入ることができた。これがその出会いであった。
 シフトはいつも入れた。週一の休み以外はいつも店に入った。平日は当然ながら学校が終わってからであり休日はいつもいた。休みはわざと潤に合わせていた。
「いやあ、里香ちゃん真面目だね」
「しっかりしてるよ」
 彼女の働きぶりは店の皆から好評だった。智代の勧めに従っていつも真面目に働いていたのだ。この方が彼の好感情を得ると言われてだ。
「いい娘雇ったね」
「美人さんだしね」
 勿論化粧も忘れてはいない。化粧も勉強した。こうして彼の側にいつもいた。店の中の評判は彼の耳にも入らない筈がなく彼は何時の間にか里香の方をよく見るようになっていた。
「あっ、花崎さん」
「何ですか?」
「敬語じゃなくてもいいよ」
 ある日彼は穏やかな声で彼女に言ってきたのだった。店の奥でお客に出すメニューをチェックしながら。
「だってさ。僕達同じ高二じゃない」
「ええ」
「同じ歳だからいいじゃない」
 こう彼女に言ってきたのだ。
「そうだろう?だからね」
「いいんですか」
「普通に言ってみて」
 穏やかな声のまま言ってきたのだった。
「普通にね」
「うん。じゃあ」
 タイミングを置いて。それで言ってみたのであった。
「何?」
「そうそう。それでいいよ」
 潤はにこりと笑って彼女に応えた。その笑顔がまた実にいいものであった。
「それでね」
「そう。だったらこれからは」
「同じ口調でいこうね」
「ええ。それじゃあ」 
 こうして二人の仲は親しいものになった。学校で里香本人から聞いた智代は満足した顔で彼女に対して告げるのであった。
「そうそう、それでいいのよ」

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