初めての都市
シキの苦悩
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けがない。切り刻んでいる最中、バンクルトが頭を抱えたのは想像できない事ではないだろう。事実、事件後、飲み屋でやけ酒していた。
これが武芸者だけだったのなら、箝口令を引けばいいだけだったが、一般人の前でシキは戦っていた。そのため事件後、謎の『美少女武芸者』として話題になってしまった。
噂は瞬く間に広がり、誇張し、尾ひれがつき、あれよあれよとシキは英雄に祭り上げられた。ちなみに、バンクルトは噂を聞いた瞬間、飲んでいた珈琲を吹き出した。
元々、レギオスという閉鎖空間は娯楽を常に欲している。そこに、アニメーションや映画からやってきたようなシキは格好の獲物(娯楽)だ。なんでも、今回の活躍を描いた映画が作られるらしい。
こうなったらいっそのこと、シキの事を公にしよう、そう決断したバンクルトとシキは記者会見を行った。以下はその時のことである。
「年齢は?」
「十歳です」
「汚染獣を一方的に蹂躙したとはホントですか」
「まぁ、はい」
「出身都市がグレンダンとありますが、高名な武芸者の家柄で?」
「いや、孤児なんです。お金を稼ぐために訓練していただけです」
「一瞬で幼生体を倒したという報告もありますが」
「それは嘘ですよ。確かに幼生体は倒しましたが」
「空を飛んだらしいですが」
「飛んでません。跳んだだけです」
「女性なんですよね!」
「男だぁ!! ……コホン」
まぁ、こんな風に答えていたのだが、シキはヨルテムに残るのか、と言った質問が多かった。シキは都市に移住などはしないと明言し、記者会見は終わった。
数日前に会った都市長にも、永久権と生活面の保証を対価に都市に残ってくれ、と言われていた。
丁重にお断りしたのだが、シキほどの武芸者は逃がしたくなかったのだろう。わざわざ交叉騎士団を待機させていた。その時の都市長はドヤ顔でふんぞり返っていた。……団員たちの青くなった顔も見ずにだ。
バンクルトに釘を刺されていたのだろうが、欲に目がくらんだのだろう。
数分後、都市長が顔を青くしながら、ぜい肉で太くなっていた首筋に刀を突きつけられていた。床には叩きのめされた団員たちが転がっていた。
そしてシキが言ったセリフは、この一言だけだった。
「俺は旅の途中でここに立ち寄っただけです。移住する気はありません」
そして釘を刺すようにシキは、こう続けた。
「もしも、これ以上勧誘するって言うなら、この都市を破壊する。冗談抜きでな」
シキの目から、それが冗談ではないと感じ取った都市長は諦めるようにうなづいた。
後日、懲りずに勧誘しようとバンクルトに頼みに行ったのだが。
「やめておきなさい。彼は強すぎる。触らぬ神に祟りなし、関わりすぎると滅ぼされるぞ」
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