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戦国異伝
第百七十一話 三河口の戦いその六

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「わしは信玄入道じゃな」
「しかし、何という強さか」
 普段な剽軽な素振りの羽柴もだ、信玄の戦ぶりを見て唖然となっていた。
「甲斐の虎、恐ろしい男じゃ」
「兄者、迂闊に出られては」
 その羽柴に秀長が言う。 
「危ういですぞ」
「首がのうなるか」
「まさに」
 だからだというのだ。
「今も権六殿と牛助共がおられてこれですから」
「久助殿とな」
 滝川もいてだった、織田家の武の者達が揃っていても。
「これじゃからな」
「ですから」
 だからだというのだ。
「ここは」
「いやいや、安心せよ」
「そう言える理由は」
「確かに危ういがここで下がってはならん」
「だからですか」
「わしも武士になったのじゃ、それならな」
 秀吉は笑って秀長に話す。
「これ位のことで怖いから下がることはせんわ」
「ではですな」
「ここにおるぞ、このまま」
 今まで通りというのだ。
「ではわし等もじゃ」
「ここで踏み止まり」
「武田と戦うぞ」
 こう話してだ、そしてだった。
 羽柴兄弟もまた前線で戦い続ける、そして。
 その中でだ、信長は。
 中央は自ら戦い左翼は丹羽達を向かわせた、そのうえでだった。
 自軍の右翼を見てだ、すぐに美濃四人衆に言った。
「御主達は右翼に向かえ」
「自軍のですか」
「そうせよと」
「そうじゃ、すぐに向かえ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「そしてですか」
「そのうえで」
「武田の横か後ろに回れ」
 そうしてだというのだ。
「ではいいな」
「はい、では」
「今より」
「うむ、急げ」
 急いでだ、右翼を率いて攻めよというのだ。
「中央と左で防いでおる、ではな」
「右ですな」
「右を使えば」
「うむ、勝てる」
 だからだった、ここで。
 美濃四人衆が右翼に向かった、そしてすぐにだった。
 織田軍の右翼は武田の左翼及び後方に向かって来た、それで数に劣る武田軍を付き崩そうというのだ。
 だがそれを見逃す信玄ではなかった、彼はすぐにこう言った。
「今度は敵の右が来たな」
「はい、凄まじい勢いで」
「来ております」
「ではじゃ」
 それではとだ、ここでこう言った信玄だった。
「頃合じゃな」
「下がりますか」
「そうされますか」
「うむ、信濃から帰るぞ」
 そこから甲斐にというのだ。
「そうするぞ」
「では北にですな」
「北に向かわれますな」
「そうする、そしてじゃ」
 このことを言ってからだった、さらに。
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