第百七十一話 三河口の戦いその六
[8]前話 [2]次話
「わしは信玄入道じゃな」
「しかし、何という強さか」
普段な剽軽な素振りの羽柴もだ、信玄の戦ぶりを見て唖然となっていた。
「甲斐の虎、恐ろしい男じゃ」
「兄者、迂闊に出られては」
その羽柴に秀長が言う。
「危ういですぞ」
「首がのうなるか」
「まさに」
だからだというのだ。
「今も権六殿と牛助共がおられてこれですから」
「久助殿とな」
滝川もいてだった、織田家の武の者達が揃っていても。
「これじゃからな」
「ですから」
だからだというのだ。
「ここは」
「いやいや、安心せよ」
「そう言える理由は」
「確かに危ういがここで下がってはならん」
「だからですか」
「わしも武士になったのじゃ、それならな」
秀吉は笑って秀長に話す。
「これ位のことで怖いから下がることはせんわ」
「ではですな」
「ここにおるぞ、このまま」
今まで通りというのだ。
「ではわし等もじゃ」
「ここで踏み止まり」
「武田と戦うぞ」
こう話してだ、そしてだった。
羽柴兄弟もまた前線で戦い続ける、そして。
その中でだ、信長は。
中央は自ら戦い左翼は丹羽達を向かわせた、そのうえでだった。
自軍の右翼を見てだ、すぐに美濃四人衆に言った。
「御主達は右翼に向かえ」
「自軍のですか」
「そうせよと」
「そうじゃ、すぐに向かえ」
こう言うのだった。
「よいな」
「そしてですか」
「そのうえで」
「武田の横か後ろに回れ」
そうしてだというのだ。
「ではいいな」
「はい、では」
「今より」
「うむ、急げ」
急いでだ、右翼を率いて攻めよというのだ。
「中央と左で防いでおる、ではな」
「右ですな」
「右を使えば」
「うむ、勝てる」
だからだった、ここで。
美濃四人衆が右翼に向かった、そしてすぐにだった。
織田軍の右翼は武田の左翼及び後方に向かって来た、それで数に劣る武田軍を付き崩そうというのだ。
だがそれを見逃す信玄ではなかった、彼はすぐにこう言った。
「今度は敵の右が来たな」
「はい、凄まじい勢いで」
「来ております」
「ではじゃ」
それではとだ、ここでこう言った信玄だった。
「頃合じゃな」
「下がりますか」
「そうされますか」
「うむ、信濃から帰るぞ」
そこから甲斐にというのだ。
「そうするぞ」
「では北にですな」
「北に向かわれますな」
「そうする、そしてじゃ」
このことを言ってからだった、さらに。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ