第百七十一話 三河口の戦いその五
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そしてだ、その武田の正面にだった、彼がいたのだった。
赤い具足に陣羽織、それに諏訪の兜の馬上の大男、彼こそまさにだった。
「あれがじゃな」
「はい」
「紛れもありませぬ」
誰もがその者を見て唸った、軍配を持つ彼こそがだった。
「武田信玄です」
「武田の主です」
「あの者こそが」
「まさに」
「そして周りの者達は」
信玄だけではなかった、そこにいるのは。
赤の具足に鞍と陣羽織、まさに彼等もだった。
「武田二十四将」
「あの若武者は真田幸村かと」
信玄の采配の下怒涛の攻めを見せる彼等の中でもだった、特に恐ろしいまでに働きを見せる精悍な男こそがだった。
「あの男が」
「武田の」
「うむ、そうじゃな」
信長もその若武者を見た、そのうえで言った。
「あの者こそな」
「恐ろしい男ですな」
「あそこまで強いとは」
「ふむ。当家であの男の相手が出来るのは」
信長は考えた、そのうえで。
丁度傍にいた慶次に顔を向けてだ、こう告げた。
「慶次、御主が行け」
「あの者の首を取れと」
「いや、あの者と御主の強さは互角じゃ」
個々の武勇では織田家随一の慶次ですらというのだ。
「止めよ、よいな」
「さすれば」
「そしてじゃ」
信長は慶次に命じてからだ、さらにだった。
他の諸将にはだ、こう命じた。
「他の者はわしと共にじゃ」
「はい、武田の主力とですな」
「ぶつかれと」
「疲れたなら後ろに下がり次の者と代われ」
信長は具体的な攻め方も述べた。
「鉄砲隊もじゃ」
「代わりがわりにですか」
「攻めよと」
「そうせよ、どうやらな」
「どうやら?」
「どうやらといいますと」
「二列に分けた方がよさそうじゃ」
そうして鉄砲隊を撃たせる方がいいというのだ。
「一列で一気に撃つよりな」
「では一列が撃ってですか」
「その列が弾を込める間にですな」
「もう一列が撃つ」
「そうして攻めますか」
「そうせよ、槍兵も弓兵もじゃ」
彼等もだというのだ。
「疲れたなら後ろに下がり新手と代われ、数で負けておらぬならな
「その数を使う」
「そうされますか」
「そして左翼はな」
信玄が信繁を向かわせた場所だ、信玄の弟だけありその攻めは阿修羅が群れで来ているかの様である。
その左翼にはだ、信長は丹羽を見て命じた。
「五郎左、御主が行け」
「それがしがですな」
「武田典厩は武田家の副将、尋常な相手ではない」
「その武田典厩を防げというのですな」
「そうじゃ、八郎と般若、菊千代もつける」
中川、蜂屋、堀をだというのだ。
「御主が行って止めよ、よいな」
「畏まりました、それでは」
「さて、そしてじゃ」
信長はまた信玄を見た、そのうえでの言葉だった。
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