第5章 契約
第94話 闇にひそむもの
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だから私の手を取って、一緒にゲルマニアに来て。最早、懇願するかのような色を帯びたキュルケの声が、白に覆い尽くされつつある世界に響く。
しかし――
夜の闇の下、ゆっくりと首を横に振り拒絶の意を伝えるタバサ。そうして、
「貴女の方こそ、わたしの手を取りガリアに来て欲しい」
キュルケと同じように右手を差し出し、自らの親友に対してそう告げる。
幼いと表現してよい少女が、正面に立つ親友を見つめるにしては、少し違和感を覚える視線を向けたままで……。
「何時でもあなたはつまらなそうにしていた。それは、自らの取り巻きに囲まれ、女王のように振る舞っている時も、わたしに対して話し掛けている時も……。
そして、わたしを胸に抱き締めて居る時も変わりはなかった」
他の物音が途絶えた白と蒼の世界に響くタバサの声。まるで人形のような整い過ぎた顔立ち。硝子越し、更に感情の起伏を感じさせない青玉の瞳で自らの親友を見据えて。
いや、彼女が発して居る感情は……憐憫か。
このふたりの距離はたった五メートル。しかし、それは永遠に等しい距離。少なくとも、今のタバサにガリアと縁者を捨ててゲルマニアに亡命する事は考えられない。
貴族としての生活は望んでいなくても、彼女が今まで生きて来られた理由。更に、今まで貴族として暮らして来た矜持や責任と言う物を放り出す事が、今の彼女に出来る訳は有りませんから。
彼女。タバサの生き方の基本は騎士で有り、貴族で有りましたから。
今までも。そして、これから先も。
少なくとも、騎士道に反する行い。謂れなき暴力を振るおうとしているのはゲルマニアの方。確かに、ロマリアが言うように神の怒りとやらに因って大陸が浮遊する可能性もゼロでは有りません。……が、しかし、その原因の部分。精霊力の暴走に因ってアルビオンが浮遊している状況ではない事は、その精霊の王と言うべき存在たちの証言や、アルビオンの環境などからほぼ確実。
ならば、少なくとも、その大地が浮遊する原因をちゃんと説明をするのが先でしょう。
兵は国の大事。死生の地、存亡の道なり。……と言われて居ます。このような重要な事を、そんな起きるか起きないか判らない、ましてや原因が神の怒りと言うのなら、現状でその神の怒りに因り浮遊島と化して居るアルビオンに人が暮らして居る事さえ不思議な状況だと言わざるを得ない説明で軽々に判断して、ロマリアに追従する事など出来る訳がないでしょうが。
まして以前の聖戦に置いて、エルフ懲罰軍の軍隊がガリア国内を大人しく通過するだけで終わらなかった歴史も有るようですから。
「――だから言ったでしょう、アウグスタ。彼女らに亡命を勧めたとしても受け入れられるはずはない、とね」
キュルケの後ろ。
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