第五章
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第五章
「絶対という言葉はありませんから」
「阪神に絶対はありませんね」
「最終戦で負けたり十三ゲーム差を返されたり」
どれも実際にあったことだ。
「日本シリーズで四連敗したことも」
「だからです」
雄二はまた言った。
「阪神に絶対という言葉はありません」
「そうですね。だからこそ面白いですけれど」
「はい、じゃあ行きましょう」
「ええ、是非」
こうして二人は阪神の応援に行くことになった。球場で二人で応援する。するとであった。二人共初回からいきなり落胆することになった。
「これは」
「よりによって山本好調ですね」
中日のベテラン左腕がだ。見事な投球を見せていたのだ。
三者連続三振に終わった。最初からこれだった。
「立ち上がりいいですね」
「ええ、確かに」
二人の顔がここで曇る。
「これは中々打てないのかも」
「まずいですね」
「まだ初回ですけれど」
「それでもこれは」
二人はそのピッチャーの好調に不吉なものを感じていた。そしてその予想は当たりだ。阪神側のイニングは零行進が続いていた。
その代わり中日側は的確に点を入れていく。憎たらしいまでに的確にだ。そして二人は試合が終盤になって気付いたのだった。
「得点はおろかヒットさえも」
「出ていませんね」
「ええ、一本も」
「まさか」
そのまさかだった。阪神側のスタンドが騒ぎだした。
「おい、ノーヒットノーランかい!」
「何で打てんのじゃ!」
「ほんのヒット一本でも打て!」
「猛虎の意地見せんかい!」
全国から集まるファン達が激昂する。しかしであった。
ヒットすら出ない状況が続いてだった。それが終わった。
見事であった。まさかのノーヒットノーラン達成である。これに怒らない阪神ファンはいなかった。
「巨人に負けるより悔しいわ!」
「ここでその負けはないやろが!」
「中日に優勝されて楽しいか!」
「おどれ等アホか!」
怒り狂った罵倒の嵐である。そしてだ。
二人もだった。明らかに怒っていた。
「何といいますかねえ」
「はい、これは」
「終わりましたね」
「そうですね」
まさに敗戦であった。
「今年は中日ですか」
「やっぱり日本シリーズでの負けは残りますね」
「ええ、確かに」
「あの四連敗は」
日本シリーズで四連敗したチームは次の年は優勝していない。ただ昭和三十三年の巨人は西鉄の稲尾の四連投に敗れたがそれでも翌年も出た。だが今度は何回の杉浦の四連投に敗れている。
「まあ阪神らしいですけれどね」
「いえ、諦めたら駄目です」
こう言ったのは侑布である。
「それでもクライマックスがありますから」
「だからですか」
「最後の最後まで諦めないことです」
侑布はその優しい顔
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