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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百三十六話 嫌がらせ     
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うな作戦ですからね」
妙な表情だ、ワイドボーンは困ったような表情で笑っている。

「だとすると本当にこれは形だけの出兵計画か」
「そうだと思います。政府も軍上層部もそのつもりでしょう。実際に出撃することは無いと思いますよ、議会と同盟市民に対するポーズです。万一の時の準備は出来ていますと……。それとも嫌がらせかな、何時でもやってやるぞという」
「やれやれだな」
「やれやれですよ」

同盟議会では政府に対して帝国の軍事行動が失敗したらどうするのかという質問が出た。帝国が反乱鎮圧に失敗した時は同盟がそれを鎮圧しイゼルローン要塞を同盟の物にするべきだ、質問者はそう主張していた。実現可能とは思えない、要塞を落とす事、そして帝国に要塞の所有を認めさせる事、どちらも極めて難しい。

質問者も本気では有るまい、政府を困らせるための嫌がらせだろう。大体経済界が望んでいるのはイゼルローン要塞の所有ではない、イゼルローン回廊の解放であり帝国との交易なのだ。イゼルローン要塞の所有など要求したら帝国との和平が崩れかねない、本末転倒だ。もっとも質問者はそこを上手くやるのが外交だと言っていたが……、無責任な話だ。

嫌がらせに対して政府を代表して答えたのがヴァレンシュタインだった。彼は十個艦隊を動員すれば攻略は可能だと答えた。そして付け加えた。但し最低でも三個艦隊、四百万人以上の損失と死傷者が出る事を覚悟して貰いたいと……。要塞攻略は可能だと聞いた時の質問者の顔は喜色満面だった。言質を取った、そう思ったのだろう。だが損失を聞いた後は彼の顔は強張っていた。そしてヴァレンシュタインが追い打ちをかけた。

それだけの損失が発生すれば当然だが補充は最優先で行わなければならない。新たな艦船の建造は言うまでもないがそのために国防費の増額が必要になるだろう。財政委員会が検討している減税、そして政府が考えている一部将兵の動員解除、人員削減は事実上不可能になるだろう。社会機構全体に亘って進むソフトウェアの弱体化はより深刻な事態になると思われる……。

同盟議会から無責任なイゼルローン要塞攻略論が唱えられる事は無くなった。そして同盟市民もその多くがイゼルローン要塞の反乱鎮圧は帝国に任せるべきだと考えている。政府と軍が出兵計画を策定しているが形だけだ、ワイドボーンの言う通り議会に対する嫌がらせだろう。誰も戦争を望んでいない。同盟は平和に慣れつつあるようだ。







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