志乃「私がしたいのは、兄貴と一緒に一つの動画を作ること」
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ものやり取りをしていると、やはり時が流れるのは早いもので、いつの間にか俺達は家の近くの道を歩いていた。
今の時間帯は夕方。俺は場所的に自然とあの時の事を思い出していた。
「なんか懐かしいな。まだ一ヶ月経ってないぐらいなのに」
思い出すのは、志乃に何年かぶりにマトモに話しかけられた時のこと。そしてカラオケの帰りに志乃に平手打ちを食らい、同時に『目的』を見つけた。……その後ちょっとだけ警察のお世話になったのは、あまり良い記憶ではない。
「まぁ、今はひたすら前向くしかないよな」
俺が志乃に笑い掛けると、志乃も口を開いた。
「あの時私が言ったこと、覚えてる?」
「えっと、俺がお前の引き立て役って話か?」
あれからそれについての話は一回もしておらず、いまだに志乃の目的ははっきりとしていない。だが、きっと壮大で楽しい事なんだろうなとは思う。
そして、改めて志乃に聞いてみる事にした。
「あれはどういう意味なんだ?俺には全く……」
そう言い掛けたところで、俺の視界が一気に曇った。額や鼻の先にかさかさしたものが当たっていて、どこかむず痒さを感じる。
俺がそれを手でどかすように触ると、それは紙だった。いきなりこいつはどこから紙を取り出したんだよ。しかも何枚もあるし。
「兄貴は歌うのが好きなんだよね」
突然志乃がそんな事を俺に聞いてきた。特に何も考えずに、俺はそれに対する回答を志乃に伝える。
「そうだよ。お前が改めて教えてくれたんじゃん」
「そうだね。じゃあそれを見て」
そう言われて改めて手に持っている紙に目をやる。
そして、思わず息を飲んだ。
「志乃、これって……」
「私がしたいのは、兄貴と一緒に一つの動画を作ること」
志乃が俺の問いに答えずに紡ぎだした言葉と紙に書いてある曲の歌詞は、それだけで志乃の目的を見え隠れさせていた。
そして、俺はその見え隠れしている部分を明らかにするべく、確信に近い言葉を呟く。
「つまり、俺は紙に書いてある曲を歌って、お前がその曲の伴奏するのか?」
「音源はピアノとボーカルを抜いて使い回しだけどね。兄貴なら出来るでしょ」
そう追加情報を話す志乃の言葉は少し照れくさそうで、それでいて俺に対してあくまで上から目線を止めなかった。
だが、俺はあまりに唐突な発表とその内容に悪態を吐く事すら忘れてしまった。
その紙には、ある曲の歌詞やメロディーが書かれており、音が出しにくい部分や音程が細かな部分が注意深く記されていた。恐らくネットから取ったのだろうが、メロディーの箇所に志乃の字が書かれているところを見ると、志乃は一通り目を通したらしい。このメロディ
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