第四章 雨の想い編
第四話 恐怖と決意
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かった。
二人に心に追い討ちをかける結果になるのを知っていながら、彼女は嘘一つつかずに真実だけを話した。
その理由、それは今だからこそ二人は命の価値を理解できると思ったからだ。
相良翔は誰よりも早く、命の価値を理解していた。
だからこそ彼は強く、たくましく、脆かった。
斑鳩は二人にそれを知ってもらうことで、理解してこれからの先のことを考えて欲しかった。
「多分、ここが分かれ道だと思う。 もう、相良翔は決断してることを、今度はあなたたちが決断しなければいけない」
失うことの恐怖を知り、得ることの価値を知った彼女たちは今こそ決断の時だった。
魔法使いとして、この先に踏み込むにはそれだけの覚悟と決意が必要なのだ。
二人は静かに俯き、しばらく考えた。
(私は‥‥‥魔法使いとして生きることが普通だと思っていました。 けれど今は、死ぬのが怖い。 失うかもしれないという光景を見るのが怖い。 目をそらしたい‥‥‥そう思ってる)
(私は‥‥‥お兄ちゃんのためなら、この命をかけることができた。 だけど今は‥‥‥死ぬのが怖いよ‥‥‥)
二人は共に、死の恐怖に怯えていた。
魔法使いとの戦い、その中で死にかけることはもちろんあった。
けれど二人はその死という運命を何度も乗り越えてきて、今があった。
何度も乗り越えていくうちに、死というのがいつも目の前にあるものだと思っていた。
だけど今、目の前で死にかけているのは二人が愛してやまない少年なのだ。
最愛の人が死ぬかもしれない、そしていつか自分もそうなってしまうのかもしれない。
(翔さん‥‥‥)
(お兄ちゃん‥‥‥)
相良翔は、こんな死の恐怖をいつの間に乗り越えたのだろうか?
魔法使いになってからまだ半年も経過していないにも関わらず、誰よりも強くなっていた。
どうして彼は、あんなにも真っ直ぐでいられるのだろうか?
どうして彼は、あんなにも優しくしていられるのだろうか?
死の恐怖に怯えれば、まず真っ先に自分の命を守ろうと思うのが普通だ。
他人なんて二の次、いやそれ以外にもなるかもしれない。
人によっては、他人を平気で裏切ってしまうかもしれない。
だが彼は、どんな死が待っていようとも、死を恐れずに誰かを守ってきた。
そんな彼はどんな答えを出していたのか。
そして彼は、何のために戦っているのか聞きたかった。
(翔さん。 私、怖いです)
(お兄ちゃん‥‥‥私、怖いよ)
二人の心の悲鳴が、静かに木霊した。
沈黙の病室、誰も動かず、誰も喋らなかった。
二人は迷いの中、相良翔の顔を見つめた‥‥‥その時。
―――
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