第四章 雨の想い編
第二話 桜女帝の意地
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きたいことは聞いた。 武と紗智のお見舞いに行かなきゃなんないからな」
そう言って春人は少し足早に屋上を去った。
去り際、ルチアの肩をポンと叩いて言った。
そしてその言葉は、彼女にとって一生忘れられないものとなるだろう。
「間違えるなよ。 失ってからじゃ遅いんだからな」
屋上のドアは閉められ、残されたルチアは一人、薄暗く染まっていくソラを眺めていた。
「‥‥‥届かない‥‥‥わね」
ルチアはその両手を、ソラに向けて伸ばす。
届くはずのないその両手は、空虚の中で寂しそうにしていた。
願い、想い、全てが届かず、ただ無情のソラは黒く染まっていくのだった――――――。
***
――――――少し時は遡り、春人が屋上に向かっている頃。
相良翔は生徒会室を訪れていた。
「会長。 いますか?」
ノックをして、会長である井上静香の応答を待つ。
‥‥‥だが、10秒程待っても返答は何一つなかった。
まだ来ていないのだろうか? と思ったが、よく見ると生徒会室の中は電気がついていた。
それは、ドアの上がガラスとなっており、そこが光っていたからだ。
「‥‥‥失礼します」
そう言ってドアノブに手をかけると、ドアノブは何の抵抗もなくひねることができた。
鍵の締め忘れを静香がするわけもなく、恐らく中にいるのだろうと思った翔はゆっくりとそのドアを開けた。
「‥‥‥あ」
ドアを開け、生徒会室に入った翔は驚き、小さく声を漏らした。
そこにいたのは、子供のように丸く踞って眠っている、井上静香だった。
無防備で、隙だらけのその姿と、可愛いと思ってしまうまでの寝息は今までの皆がしる井上静香と言うイメージとはかけ離れているものだった。
「‥‥‥やっぱり、疲れてたんだな」
翔が生徒会室を訪れた理由、それはお昼休み、静香の表情が少し疲れていたからだ。
‥‥‥いや、少しに見えたのは恐らく彼女の意地だろう。
翔と春人に、自分の弱いところを見せまいとする彼女の意地。
ほんとに彼女らしいなと、翔はつい頬を緩めてしまう。
「だから、辛いなら相談すればいいのに」
そう言うと翔はブレザーを脱ぐと、毛布替わりに静香の身体にそっと乗せてあげる。
今の今まで着ていたから、それなりに温もりがあるだろうと内心思いつつ、翔は静香のそばで正座をする。
そしてほんとに無防備な彼女の顔を見つめる。
「こうして見ると、やっぱり普通の女性なんだよな‥‥‥」
ふと、この学園で最初に声をかけてきた井上静香のことを思い出した。
あの
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