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伊予の秋桜
第一章
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なっていた。
「お爺様」
 そこに孫達がやって来た。
「今日も桜を御覧になられているのですか?」
「その通りじゃ」
 彼は優しい顔で孫達に述べた。
「もうすぐじゃしな」
「咲くのがですか」
「うむ。もうすぐじゃな」
 優しい目で桜を見上げて言う。もう蕾が出来ていた。もうすぐである。
「咲くぞ。満開の桜が」
「それを待っておられるのですか?」
「ここで」
「いや、実はそうではない」
 そう孫達に述べる。
「わしはずっとここにおるのじゃ。それだけじゃ」
「それはどうして」
「好きだからじゃ」
 それが彼の答えだった。
「桜がですか」
「うむ」
 また孫達に答える。
「それこそ御主達の歳からのう。好きじゃったのじゃ」
「私共の歳からですか」
「もう遥か昔じゃ」
 そう述べる。
「わからんかな。そこまでは」
「ちょっと」
「何か掴めません」
「ははは、歳を取ればわかる」
 孫達に言う。笑いながら。
「何れな。それでじゃ」
「はい」
「どうじゃ?一緒に」
 彼等を手招きしての言葉だった。
「見るか?今の桜を」
「宜しいのですか?」
「よいよい。桜は皆で見るものじゃ」
 また笑いながら言う。
「じゃからな。見ようぞ」
「わかりました」
「それでは」
「桜は。ずっとここにおる」
 自分の側に寄って来た孫達と桜に対しての言葉だった。彼は桜に声をかけることも多かった。彼にとってはそうした存在になっていたのだ。
「ずっとな。わしがいなくなっても」
「お爺様がおられなくなっても」
「ずっと。見ておいてくれよ」
 今度も孫達と桜への言葉だった。
「わしの分までな」
「はい」
「わかりました、お爺様」
 孫達が彼に答える。彼等の声は直接聞いた。それと同時にもう一つの声も聞いたのだった。だがそれは孫達には聞こえはしなかった。

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