暁 〜小説投稿サイト〜
魔法使いの知らないソラ
第四章 雨の想い編
第一話 雨にふられて
[6/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
子の声が聞こえた。

聞き覚えがあるその声に紗智は叫ぶのをやめ、情景反射で振り向いた。


「武‥‥‥」

「よッ!」


いつもと変わらない明るく、元気な挨拶が紗智の耳に響く。

なぜ彼がここにいるのか? その理由は彼はすぐに答えた。


「雨が降りそうだ。 お前、どうせ傘なんて持ってないだろうからさ」


そう言うと武は、右手にもったビニール傘を紗智に見せる。

そして空を見上げると、ソラは曇天に染まっていた。

冬の寒さが相まって、今まで以上に寒く感じる。

そして気づくと、雨はポツポツと降り始めた。


「おっと‥‥‥」


武は傘を開けながら紗智の左隣に向かう。

そして紗智を傘の中に入れると、苦笑いしながら言った。


「雨が強くなる前に、帰るぞ」


そう言って武は静かに歩きだそうとした。

‥‥‥だが、その歩みは止められる。

なぜなら、紗智が武の制服の裾を摘んで立ち止まるからだ。


「‥‥‥紗智?」

「ごめん‥‥‥ね」

「‥‥‥」


武は、何も言えなかった。

こんなにズタボロの彼女を初めて見た彼は、なんと言えばいいのか分からなかったのだ。

だが、反射的に右手が紗智の頭の上に伸びた。


「あ‥‥‥」

「‥‥‥悪い。 俺には、こんくらいのことしかできねぇからさ」


そう言って武は無言で、彼女の頭を撫で続けた。

そのせいで、彼女が再び堪えていた感情を出してしまうのを、理解しておきながら。

そして感情を出した紗智は、武の手を振り払って力いっぱいに、彼を抱きしめた。

武の胸に顔を埋め、両腕を背に回した。

あまりの急なことに驚いた武は不覚にも傘を落としてしまう。

拾いたいが、彼女が離れてくれないため、雨に打たれるしかなかった。

抵抗しようにも、今の彼女を振り払うことができない。

そうこうしているうちに、雨は強くなる。

制服はすぐにずぶ濡れになってしまう。

だが、紗智の体温が伝わってくるため、寒さは感じなかった。

そして武は、紗智に聞いた。

なぜここで叫び、泣いたのかを。

理由は知っていても、聞かずにはいられなかった。


「‥‥‥翔のこと、好きだったんだな」

「うん‥‥‥」


驚くほど素直に頷いた。

今まで、内向的な人間だとばかり思っていた紗智は、相良翔と言う存在への想いだけは隠しきれなかった。

そして紗智は恐らく、翔にフラレたのだ。

いや、告白してフラレたわけではないはずだ。

恐らく紗智は‥‥‥諦めたのだろう。


「好きだった‥‥‥大好きだった‥‥‥だけど、私じゃ‥‥‥ダメなの」


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ