第四章 雨の想い編
第一話 雨にふられて
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子の声が聞こえた。
聞き覚えがあるその声に紗智は叫ぶのをやめ、情景反射で振り向いた。
「武‥‥‥」
「よッ!」
いつもと変わらない明るく、元気な挨拶が紗智の耳に響く。
なぜ彼がここにいるのか? その理由は彼はすぐに答えた。
「雨が降りそうだ。 お前、どうせ傘なんて持ってないだろうからさ」
そう言うと武は、右手にもったビニール傘を紗智に見せる。
そして空を見上げると、ソラは曇天に染まっていた。
冬の寒さが相まって、今まで以上に寒く感じる。
そして気づくと、雨はポツポツと降り始めた。
「おっと‥‥‥」
武は傘を開けながら紗智の左隣に向かう。
そして紗智を傘の中に入れると、苦笑いしながら言った。
「雨が強くなる前に、帰るぞ」
そう言って武は静かに歩きだそうとした。
‥‥‥だが、その歩みは止められる。
なぜなら、紗智が武の制服の裾を摘んで立ち止まるからだ。
「‥‥‥紗智?」
「ごめん‥‥‥ね」
「‥‥‥」
武は、何も言えなかった。
こんなにズタボロの彼女を初めて見た彼は、なんと言えばいいのか分からなかったのだ。
だが、反射的に右手が紗智の頭の上に伸びた。
「あ‥‥‥」
「‥‥‥悪い。 俺には、こんくらいのことしかできねぇからさ」
そう言って武は無言で、彼女の頭を撫で続けた。
そのせいで、彼女が再び堪えていた感情を出してしまうのを、理解しておきながら。
そして感情を出した紗智は、武の手を振り払って力いっぱいに、彼を抱きしめた。
武の胸に顔を埋め、両腕を背に回した。
あまりの急なことに驚いた武は不覚にも傘を落としてしまう。
拾いたいが、彼女が離れてくれないため、雨に打たれるしかなかった。
抵抗しようにも、今の彼女を振り払うことができない。
そうこうしているうちに、雨は強くなる。
制服はすぐにずぶ濡れになってしまう。
だが、紗智の体温が伝わってくるため、寒さは感じなかった。
そして武は、紗智に聞いた。
なぜここで叫び、泣いたのかを。
理由は知っていても、聞かずにはいられなかった。
「‥‥‥翔のこと、好きだったんだな」
「うん‥‥‥」
驚くほど素直に頷いた。
今まで、内向的な人間だとばかり思っていた紗智は、相良翔と言う存在への想いだけは隠しきれなかった。
そして紗智は恐らく、翔にフラレたのだ。
いや、告白してフラレたわけではないはずだ。
恐らく紗智は‥‥‥諦めたのだろう。
「好きだった‥‥‥大好きだった‥‥‥だけど、私じゃ‥‥‥ダメなの」
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