第四章 雨の想い編
第一話 雨にふられて
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なかった。
その理由を、一番事情を理解しているであろう少女、紗智が代弁する。
「実はさっきルチアちゃんに聞いたの。 翔と何かあった? って。 その時にルチアちゃん、顔を真っ赤にしてこっちを睨みつけてきたの」
「え‥‥‥」
今までの喧嘩でルチアは、そんな態度や表情をしたことはなかった。
基本的にポーカーフェイスを崩さないのがルチアのアイデンティティのようなもので、翔達もそれが普通だと理解している。
例え喧嘩をしたとしても、その感情を表情に出したりはしない‥‥‥ルチアと言うのはそう言う人だとずっと思っていた。
だが、今回の件に関しては今までとは全く異なるルチアがそこにいた。
「なんでだろう‥‥‥今回はいつもよりも分からないな」
そしてそれを、世間知らずの翔が知るわけもなかった。
孤児院にいたころ、喧嘩は日常茶飯事だったが、その頃はなんでもかんでも殴り合いでどうにかしていた。
この前の事件で再会を果たした親友、『朝我 零』と義姉『皇海 涼香』がその例だ。
朝我とは小さなことで殴り合いを繰り返していた。
涼香とは喧嘩はなかったものの、言い争いをした記憶がある。
だがそれは昔の話しであり、今は事情が違う。
ルチアの事情はどうやっても、翔には理解できない。
なぜなら、ルチアと言う存在は今まで喧嘩してきた人とは異なるからだ。
彼女は感情、本音を一切表に出さないタイプで、何が好きで何が嫌いなのかを察することができない。
喧嘩をしても、なぜ怒るのかが全く分からない。
今までの喧嘩は、気づけば解消されていたが、どれもこれも理由はわからないままだった。
そして今回、ルチアが感情を表に出すほどに怒っていること、それは今まで以上に大きな問題なのだろうと言う想像はできた。
「‥‥‥翔」
「なんだ?」
すると紗智は、今までにないくらい真剣な表情になる。
そして翔の瞳を覗き込むようにして言った。
「これは多分、私達が関わっていいことじゃないと思う。 だから翔が気づくしかないんだと思う」
「紗智‥‥‥」
今までにないくらいにその言葉は力強く、そして翔に深く突き刺さるものだった。
気づかないといけないことがあり、それは他の誰にも聞いていいことではなく、自分自身で気づくしかない。
それが今の翔のやるべきことだった。
「分かった」
こうして相良翔はまた一つ、新たな試練に立ち向かうこととなるのだった。
「‥‥‥そう言えば、今日の午後は雨だったな」
翔は窓の外‥‥‥青空から徐々に生まれる、灰色の雲を見てそう思ったのだった――――――。
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