第二章 迷い猫の絆編
第二話 迷い猫の痛み
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それしか言えなかった。
ほかに、かけられる言葉がなかった。
想像したくもない現実を味わってきた彼女にかけられる言葉は存在しなかった。
あったとしても、相良翔にそれを伝える勇気はなかった。
なぜなら、自分は経験していないからだ。
見たことも、触れたこともないからだ。
彼女にとって、あまりにも幸福者である翔は何も言ってあげられないのだ。
「ねぇ‥‥‥さが‥‥‥ら‥‥‥さん?‥‥‥」
言い終えてから難しい顔をして、しばらくうつむいて考え出す。
翔はその表情を見て、彼女が相良と言う苗字を言いづらいのだと察した。
「呼びづらいなら、好きな呼び方でいいよ?」
とはいえ、翔は今まで呼び方を自分で決めたことはない。
みんなが好きな呼び方をして、翔はそれを素直に受け入れると言う感じだった。
だから今回も、彼女に全てを委ねるしかなかった。
「えと‥‥‥それじゃ‥‥‥」
そしてミウは、翔をある呼び名で呼ぶことにした。
「――――――お兄ちゃん」
「ッ!?」
綺麗な花が咲いたような笑顔で、彼女はそう言った。
ミウの姿と、翔の義妹の面影が再び重なり合う。
義妹も、同じ呼び方をしていた。
その笑顔と、その言葉が、綺麗に重なって見えた。
そして翔は、言葉にできない衝動に襲われた。
彼女は一体、どんな想いで翔を兄と呼んだのだろうか?
この世界に存在しない兄を求めて‥‥‥そう呼んだのだろうか?
そんな答えを探すよりも先に、翔の体が動いていた。
「ああ。 お兄ちゃんだよ。 俺は、ミウのお兄ちゃん」
堪えきれない嗚咽に近いものを抑え込むように笑顔を見せ、ミウの小さく華奢な体を優しく抱きしめた。
そして右手をミウの頭において、そっと優しく撫でてあげた。
「温かいね、お兄ちゃん」
「ミウは、少し、冷たいな‥‥‥」
うまく言葉が続かない。
それはきっと、泣いているからだろう。
顔は涙などでぐしゃぐしゃになっているだろう。
だからそれを見せないように、彼女の顔を胸に埋めるように抱きしめた。
泣くべきなのは、翔じゃない‥‥‥本当は、ここにいる小さな少女なのだから。
「‥‥‥ぅ」
「‥‥‥どうした?」
その時、ミウは小さな体が小刻みに震えだした。
翔は涙を勢いよく拭い、抱きしめていた体を話して、彼女の顔を見る。
「痛‥‥‥いよ‥‥‥お兄、ちゃん」
「ミウッ!?」
ミウの顔は、青白くなり、大量の汗をかいていた。
荒い息、心臓のほうを左手でギュッと握る。
見ただけでわかる、これが
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