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魔法使いの知らないソラ
第二章 迷い猫の絆編
第二話 迷い猫の痛み
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猫羽(みょう)』‥‥‥ミウって呼んでください」


可愛らしい子供のような声だった。

柔らかく、幼さを感じさせる少女の声に翔はどことなく懐かしさを覚えた。


「俺は相良翔。 ここに黒猫が来てるはずなんだけど、知らないかな?」

「あ‥‥‥もしかして、この子の飼い主ですか?」


先ほどの喋る黒猫は、少女の膝の上で丸まっていた。

ミウと言う少女の右手が、黒猫の体を優しく撫でて気持ちよさそうにしている。


「いや、違うんだ。 ちょっと色々あって‥‥‥」

「そ、そうなんですかぁ‥‥‥う〜ん、困っちゃったなぁ‥‥‥」

「どうして?」

「この子‥‥‥ショコラって言うんですけど、ショコラはいつも勝手に私の病室に入ってて、きっと飼い主がいるんだと思うんですけど‥‥‥」


翔はここで、ミウがこの猫の正体を知らないことに気づいた。

恐らく、黒猫が勝手に主だと認めたのがミウなのだろうと理解した。

そしてその主‥‥‥ミウを守ってほしいと言うのが、この猫の願いだろう。


「そうだったんだ。 俺、その猫を追いかけてきたんだ」

「ショコラを?」

「ああ。 いきなり俺のところに来て、ついてきたらここについたんだ」

「そうなんだぁ‥‥‥でも、ごめんなさい。 何もない部屋で」

「いや、別に‥‥‥!」


その言葉に、翔はあることを思った。

何もない部屋、ただ真っ白だけがある空間。

ベッドの上だけで過ごす一日。

それが一体、どれだけ退屈で‥‥‥辛い時間なのだろうかと。


「君‥‥‥ミウちゃん。 ミウちゃんはこの病院にどれくらいいるの?」

「う〜んとね、ずっと!」


可愛らしく首をかしげて考えて答えたのは、ずっとと言うものだった。


「どれくらいずっとなのかな?」

「えっとね‥‥‥生まれてから、ずっと」

「え――――――ッ!?」


背筋が、ぞっとした。

――――――生まれる前から、ずっと?

頭の中で、何度も復唱する。

怖すぎる‥‥‥あまりにも、怖すぎる。


「そんな‥‥‥ミウちゃんは、ずっと‥‥‥」

「うん。 ずっと‥‥‥ずぅ〜っと」

「‥‥‥」


想像もしたくない、現実がそこにはあった。

何もない、真っ白な空間。

花瓶の一つも置かれてなく、点滴と心拍などを表示する機械が置かれている程度の病室。

その場所に‥‥‥ずっと、最初からずっと。

そんな世界しか、この少女は知らない。

目の前にいる少女は、その世界しか知らないのだ。

その世界を変えてくれているのが、ここにいる黒猫で、それしかなかったのだ。


「そう‥‥‥だったんだ」

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