第二章 迷い猫の絆編
第一話 迷い猫の噂
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丸く大きめの瞳と、小さく丸みのある顔は、少女を幼く見せる。
そんな少女は、何も置かれていない病室で一人、ソラを見上げていた。
青く澄んだソラはどこまでも広がり、時折見せる雲は複雑な形をしている。
そんな、誰もが見ているソラを彼女は誰よりも長い時間、眺めていた。
一時間、二時間、三時間‥‥‥ずっと、ずっと眺めていた。
何の目的もなく、ただずっと‥‥‥ずっと。
遠い目で、どこまでも‥‥‥どこまでも、遠くを眺めていた。
まるで、自分の新たな居場所を探すかのように。
その瞳は、新たな居場所を求めているのだった。
この、白で染まる小さな籠の中から抜け出したい思いを抱いて――――――。
「‥‥‥ぁ」
そんな少女のいる病室の窓から、“黒く小さな影”が現れる。
その“影”は徐々に姿を現すと、少女は花が咲いたように笑顔になってベッドから降りて窓を開ける。
開いた窓からその“黒い影”は入ると、少女の座っていたベッドに飛び乗って丸くなって寝転がる。
可愛らしいその姿に少女は微笑みながら再びベッドに戻る。
先ほどと同じように上半身だけ起こした姿勢でベッドにつくと、白い毛布にかけられた膝の上に“黒い影”は乗っかり、再び丸くなって寝転がる。
その愛くるしい姿に少女は己の衝動を止められず、“黒い影”を両手で触れる。
気持ちよさそうに全身をクネクネとさせるその光景に少女は幸せを感じていた。
伝わる生命の温もりを感じながら、丁寧に触っていく。
そして少女は、そんな“黒い影”に自身の持つ欲を言った。
「私‥‥‥早く、この場所から出たいな。学校にも行きたいし、友達も作りたい。 なのに‥‥‥どうしてだろうね? まだ一回も、外に出たことがないの」
気づけば少女の頬は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
自分の世界の狭さ、広げていきたい夢。
夢を邪魔する現実の籠。
籠の中に閉じ込められた小鳥のように、彼女はその小さな世界でしか生きたことがなかった。
その|理由は、彼女の体が生まれつき弱いからである。
幼き頃から病気にかかりがちで、親と医者の勝手な判断によって、物心ついた時からずっとこの病室に閉じ込められてきた。
食事も看護師が持ってきた、味気のない料理ばかり。
唯一、果物だけは味があり、それだけが彼女の救いだった。
それ以外は、ただ永遠にこのベッドの上で時を過ごす。
時計のないこの部屋で過ごす彼女の時間は、永遠そのものだった。
同じソラ、同じ部屋、同じ人、同じご飯、同じ時間、同じ世界‥‥‥。
全てが変わらず、永遠のものだった。
そんな彼女の小さな友達、それがこの小さく黒い影だった。
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