第一章 日常と非日常
第五話
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だが、ルチアは逃がさなかった。
再び翔に詰め寄っていく。
「何を隠してるの? あなたに、何があったの?」
「それは‥‥‥」
屋上のフェンスに背をぶつけ、これ以上下がれない翔は目を逸らす。
だが、絶対に逃がすまいと両手で翔の両頬を押さえつけて顔を向けさせる。
「悪いけれど、話してくれないと私も引き下がれないわ。 みんなを、守るためだもの」
「‥‥‥」
ルチアは、表情を変えないけれどその瞳から感情を読み取ることができる。
真っ直ぐに翔を見つめるその瞳は、ルチアが翔に対する強い想いを感じさせた。
力を貸してほしい、一緒に戦って欲しい。
その想いが、たった二つの瞳から見れる。
だから翔は、負けを認めた。
「‥‥‥分かった。 話すよ」
「ありがとう」
そう言うとルチアは後ろに下がって、最初と同じ距離にたった。
再び向き合うと、翔は一度深呼吸して話しを始めた。
「俺、全部をやり直すためにこの町に来たんだ」
「え‥‥‥?」
ここからは、相良翔がこの灯火町に来るまでの経緯である。
相良翔は六歳の頃から孤児院で育ち、とある少女と出会ったことがきっかけでその少女の一家に引き取られることになった。
翔はすぐにその環境に慣れたが、家族と言う距離からは少し離れていた。
それは、家族として接することに僅かながら抵抗があったからだ。
原因は孤児院にいる自分と同じ一人の人の境遇を何度も聞いたからだ。
そのほとんどの原因が、育児放棄。
それを何年も見て、聞いてきた翔にとって家族はどこか遠ざけたい関係でもあった。
だが、その家は想像とは違い暖かかった。
父母共にいつも相良翔のことを気にかけ、何かあれば助けてくれるような、そんな人たちだった。
だが、それでも翔は慣れることはできず、いつもある程度の距離を置いて接していた。
関係が壊れないちょうどいい距離、それを保つのは容易だった。
そして中学に入り、中学生でも働けるバイトを探した。
見つけたのは、新聞配達だった。
一応、明確な理由とツテや親の許可があればできるとのことだったので、彼はすぐに始めた。
時間厳守などの面があったが、なんとかやりくりしていった。
中学では友達はほとんど少なかったが、それでも僅かにできた友達とうまくやるために頑張った。
そして義妹とも、仲良く過ごしていた。
勉強、バイト、家族関係、兄妹関係、友人関係、学校、成績、受験・・・相良翔はそれら全てを上手く
こなしていた‥‥‥はずだった。
皆も気づいての通り、これら全てを中学生がこなすのは容易ではない。
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