第一章 日常と非日常
第二話
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世界に、闇は存在しない。
‥‥‥いや、闇すらも光のように世界を照らすものと同等になっている。
つまり、今の彼女が視ている世界は昼間と何一つ変わらない。
ただ一つ違うものがあるとすればそれは、ソラだけだろう。
そしてルチアの視界に写ったのは、10匹もの狼の姿。
血のように紅い瞳、青白く鋭い毛並みに、鋭く光る爪と牙。
こちらに向かって息を荒げながら威嚇してくる姿はまさに、獲物を狙った野獣そのもの。
野生の本能が相良翔とルチア=ダルクを捕食するものと判断したのだろう。
「‥‥‥なら、逃げるぞ!」
狼に狙われたとなれば、ここにいれば即襲われて終わるだろう。
目に見えない恐怖に囚われた翔はルチアの右手首を自身の右手で握ると、ルチアが指差した方向とは逆の方向に背を向けて走り出そうとする。
「ダメ」
「え‥‥‥」
だが、ルチアはその場から動こうとしない。
一歩も‥‥‥狼から、逃げようともしない。
「ごめん。 私は逃げない」
「何言ってるんだ!? 相手は野生の狼だぞ!? いくら夜目が利くからってどうにかなるわけじゃない! 俺たちじゃあの爪にやられて、最後は食われて終了だ!」
‥‥‥相手の数が多すぎる。
戦う武器も持たない無力な人間である二人に、出来ることなんてない。
ならば無様でも、逃げるしかない。
逃げて、助けを求めるしかない。
翔はそう思っていた。
いや、翔のみならず普通の人なら誰でもそう思うことだろう。
「‥‥‥」
だが、この絶望的な状況下で尚、立ち向かうこと‥‥‥抗うことを諦めない少女がいた。
逃げる、助けを求めると言う選択肢なんて最初から存在しないかのような真っ直ぐな瞳。
その瞳が見据える先にあるのは、彼らを喰らわんとする10もの野獣。
たった一人の彼女は、月明かりに煌く黒い髪を靡かせながら‥‥‥その獣の先へ一歩ずつ歩き出す。
「待てッ! 無茶だ!!」
翔は必死に制止を呼びかける。
一度掴んだ右手首からも、握力を込めて離さないようにする。
‥‥‥だが彼女は、翔を引きずるかのような力で前に強引に進もうとする。
「死にたいのか!?」
「‥‥‥」
翔の言葉に、ルチアは視線を変えずに答える。
「死ぬことなんて、怖くない。 だけど今逃げたら、死ぬよりもずっと辛いから逃げない」
「どうして‥‥‥」
――――――どうしてそこまで命を賭けられる?
翔がそう聞くのをわかっていたかのように、ルチアは言った。
「あの狼は、私達の学校の生徒を何人も襲ってる。 私達の日常を壊そうとしてるの
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