第三章
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」
このことを妻に語るのだ。今ここで。
「わしの家族とつがいの動物だけを助けよとのあの言葉だ」
「あの御言葉ね」
「そうだ。わしはあの御言葉に逆らっている」
はっきりと自覚していた。そしてもう後戻りできないことも。完全に把握していた。何もかもわかったうえで今妻に語っているのだ。
「はっきりとな」
「けれど。私は思うの」
「むっ!?何をだ」
「他の方々だけれどね」
舟の完成を手伝っている皆だ。神が信仰のない邪悪と断定した者達のことだ。
「本当に神に背いておられるのかしら」
「わしはそうは思わん」
この答えもまた決まっていた。ノアの中では。
「邪な方達でもない」
「そうよね」
「そうだ。本当にいい人達だ」
己の肌でそれを知っている。だからこそ言える言葉だった。舟を何に使うのか聞かずただノアの為に手伝っている。その心を知っているからこそだった。
「それがどうして神に背いておられるか」
「そうね」
「動物達もだ」
次に彼が言ったのは神がつがいだけ助けよと告げた動物達のことだ。彼はその動物たちのこともよく知っていた。いや、知ったのである。
「彼等も心がある」
「そうね、その通りよ」
「その証拠に」
彼等もまた舟の建造を手伝ってくれたのだ。やはりそれがどうしてなのかは聞かずただノアの為に。手伝ってくれたのである。それぞれの力で。
「わしの為に手伝ってくれている」
「だから動物達もまた」
「救われるべきだ。つがいではなく全てがな」
「そう、全てが」
「わしが今確信しているのだ。皆が助かり共に生きるべきだ」
「一緒になのね」
「神の起こされる大洪水の後で」
舟に乗り難を避けて。その後のことであった。
「皆一緒に生きるべきだと思う」
「神がどう思われても?」
「若しだ」
前置きであった。
「このことで神が罰を与えるならばだ」
「その時はどうするの?」
「わし一人が受ければいいことだ」
厳かに、確かに言う言葉だった。
「わし一人がな。神に背いたのはわしだけなのだからな」
「いえ、それは違うわ」
「違う!?」
「ええ、違うわ」
ここで妻は言った。ノアに対して。
「私も同じよ」
「御前・・・・・・」
「あなたに言われたわよね」
「あ、ああ」
「そして私はそれは違うと言ったわ。だから」
「どの様な罰かわからぬぞ」
神の怒りの激しさ、厳しさはノアも知っていた。神というものは厳格であり過ちを決して許しはしない。それは彼が絶対であり過ちを犯さないものだからだ。
「それでもいいのだな」
「あなたは覚悟されていたわね」
「その通りだ」
「それは私も同じよ」
静かに微笑んで述べたのだった。
「だから」
「いいのか」
「ええ、あなたと何処までも一緒よ
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