第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第一節 旅立 第三話 (通算第23話)
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そのとき、レコアは深い紫に塗られた《ザクU》のコクピットにいた。僚機たちも同じ色で塗装されている。両肩がスパイクアーマーになっており、スパイクシールドを左手に持っていた。キシリア・ザビ中将直属の海兵隊である。
「〈ビューティ〉、戦列から離れるな!」
「ですが、これは……」
ひときわ目立つ赤紫に塗られた《ザクU》には隊長機の証であるアンテナブレードがある。大隊長機だ。
「〈レディー〉より各機へ。これは命令である。速やかに任務を全うせよ」
声で判る。作戦を本意としていない悔しさに満ちあふれた声だった。レコアは『ハニービー』中隊に所属する新米士官だった。サイド2からジオニズムに心酔した父母につれられ、移民してきたのだが、当時、ジオン公国は移民受け入れをしてはいたものの、国籍を与えず、準国民として遇していたのである。
軍人になれば功績によって国籍を与える――それが、移民担当官の説明だった。レコアは一人娘であり、父母が年を取ってからの子供であったから、父や母を戦争に行かせる訳にはいかなかった。志願して士官学校を受けた。成績は良好であり、特にモビルスーツ適性が高いとされ、キシリア・ザビ中将配下の第七機動歩兵師団に編入され、外人部隊であるシーマ・ガラハウ少佐率いる海兵隊に配属された。
戦場はかつての故郷――サイド2。
自分が住んでいたコロニーではない。しかし、全く同じコロニーであった。
(私たち外人部隊は、こうして常に忠誠を試されるというの……?)
まだ、幼さの残る顔に後悔と後ろめたさと激しい反発の感情が綯い交ぜになって刻まれる。
「〈ビューティ〉お前は私の後ろにいろっ!」
ガラハウ少佐は己に怒っているのだろう。そう、レコアには聞こえた。呪っているのかもしれない――己の運命を。私だってそうだ。同じ自治区に住んでいた同朋をこの手で殺したのだ……。
軽いショックがあり、レコアは現実に引き戻された。
(夢……ね。)
あれ以来、眠るたびに見る、忌まわしい一年戦争の記憶。上官だったシーマ・ガラハウも今はいない。『デラーズの乱』の最中命を落としたのだと連邦軍への斡旋を受けてくれた紹介屋がいっていた。
(結局生き残ったのは私だけ……か)
窓の外を見ると、グラナダが既に後方で小さくなっていた。時間は左程たっていない。前後左右にSPがそれとは判らない恰好でついている。クワトロ・バジーナはエゥーゴにとっても、ジオン共和国にとっても重要な人物である。そして、レコアはその正体を知っていた。
海兵隊を率いていたシーマ・ガラハウは〈GGガス〉の注入の責任を問われて、A級戦犯の宣告をされると予想していた。大隊に所属する全員を集め、脱走を告げた。
「アタシに付いてきたい奴はついてきな。お前らが責任を問われることはないんだ、親兄弟なんか
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