第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第一節 旅立 第二話 (通算第22話)
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兵の練度があがる筈もない……」
シャアはそういいながらグリップから手を放し、通路から出た。スペースゲートへ流れ、思い出して苦笑いを浮かべた。ジオンの恐怖を忘れられない地球連邦政府と地球連邦軍の監視下で、補充も訓練も満足にできる筈などないと最初から判っていたことだからだ。
柔らかく着地し、振り向くとスペースゲートには、若い軍人らしい女性が立っていた。シャアを見つけて駆け寄ってきた。私服姿であるが、動きに素人らしさはみられなかった。
「クワトロ・バジーナ大尉でいらっしゃいますね?」
シャアに近づいて耳打ちしたのは、引き締まった顔立ちの女性士官だった。ショートヘアというよりもウルフカットの鮮やかな赤毛。スペースノイドらしい無駄の少ない敬礼に、少しだけシャアは、妹を思った。
「クワトロだ。シャトルの準備済んでいるな?」
「その物言い、バレますよ……」
喉の奥で笑いをかみ殺す様な声がした。今のシャアは軍服ではない。民間のシャトルに乗るために私服に着替えているのだ。スーツケースを係員に預けると、シャアは彼女を振り返った。何故だか判らないが、懐かしい匂いがした。
「そうかな…?」
なにが…という意識はなかった。IDカードをゲートスタッフに提示し、ゲートを通りすぎる。女性士官がシャアに続いた。座席は機体中央、フライトデッキから見て奥であり、目立つ場所ではなかった。
シャアがシャトルのビジネスクラスに坐ると隣に坐った。
「アンマンで乗り換えです」
「直行便ではないのか?」
「えぇ、押さえられていますから。彼でもさすがに……」
「では、しかたない。旅を楽しむか」
用心深く周囲を探る。女性士官がかすかに頷いた。いくら月の裏側に〈エゥーゴ〉に賛同する者が多いといってもティターンズの手先がいない訳ではない。特にアブ・ダビアが民間シャトルに強引にねじ込んだのだろうから、多少狭いシートでも文句は言えなかった。
「同行を仰せつかりました……レコア・ロンド少尉です」
「諒解だ。モビルスーツ乗りか…何処の出身だ?」
リクライニングを倒しながらシャアが尋ねる。レコアは咎めるように険しい表情をしながら、シャアの行動を阻んだ。
「注意されますよ……目立たないでください。それでなくても大尉は悪目立ちするんですから……」
小声で耳打ちする。
囁くような声にシャアは聞き覚えがあるような気がした。
(デジャ・ヴ……か?)
かつて、一年戦争中に得たつかの間の安息だった記憶が蘇る。しかし、それはシャアにとって辛い記憶でしかなかった。失ってしまったものは失ってからしかその大切さに人は気づくことが出来ない。それでは一体なんのためのニュータイプへの進化なのか?
そんな僅かな回顧がレコアの辛そうな表情を見逃した。
「……サイド2……です」
し
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