第十話 雑用
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行っといて」
「え?」
「俺の知り合いがここに来てるんだ」
「あぁ」
ジャガーは「ごゆっくり」と微笑んでその場を離れていった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「お久しぶりです、大友さん」
「おぉー、髪伸びたなお前ー!高校球児には見えねぇわー!」
「南十字、みんなこんなもんですよ。スポーツマンじゃないんすよねみんな」
「はっはっは、やはり聞きしに勝るふざけっぷりだなぁ」
大友は、権城の武蔵中央シニア時代の一つ上の先輩だ。東東京の名門・帝東に進学した実力者で、また一つ下の権城の実力を最も買っていた先輩でもあった。
「サザンクロス(※南十字学園の都内での通称)、すげー強いじゃん。3試合で5HR、40得点だろ?すげーじゃんか」
「いやいや、本当適当ですよ。今日なんか、サイン無視が四つもあったんですよ。本当適当で、みんな」
「適当な癖にこんだけ強いってのがまた、怖いんじゃねぇかよ」
大友の言葉通り、南十字学園の3回戦までの勝ち上がりは凄まじい。圧倒的破壊力を擁する打線で豪快に相手を叩き潰してきた。特筆すべきは3番、主将の礼二で、3本塁打を放っている。
ほぼ1年ぶりに野球して、いきなり本塁打を打てるという事に権城の野球の常識は大いに揺るがされた。まぁ、そうは言っても練習不足なので、本塁打以外はほぼ三振、打てる球だけをただ待ち続けているようなバッティングなのだが。
そして、東東京大会も4回戦にもなると、そろそろシード校との対戦が出てくる。
南十字学園の次の相手は、大友の居る名門、Aシードの帝東だった。
「ウチの先輩らも、結構焦ってるぜ?次はサザンクロスに食われるかもしんないって」
「いやぁー、さすがにそれは無いと僕は思いますけど」
権城のそれは、お世辞ではない本心だった。
さすがに、こんな適当な南十字学園が真っ当な名門の帝東には勝てないだろう。
いや、むしろ勝ってはいけない気がする。
勝ってしまうと、それは世の中の努力一般に対する大いなる挑戦だ。
「まぁ、全力でやるだけなんだけどな、お互い。じゃあな権城、試合に出れなくても腐んなよ」
「あっ、はい」
「お前が雑用に走り回ってるの、先輩のスコアラー達が感心してたぜ。あの権城がこんなに健気に雑用してるってな。」
「………」
権城が手を振って、笑顔で大友はホテルのロビーを出て行く。その背中に権城はお辞儀しながら、頭の中で考えていた。
もしかしたら、大友さん、最後の言葉を言いに来てくれたのじゃないだろうか。自分が腐ってないか、気を遣って。
ありがてぇなぁ……
胸の奥で呟くはずだったのに、その言葉は自然と口を付いて出ていた。
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