第九話 苛立ち、癒され
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目つきで相手を威嚇するような顔をしている月彦が、この時ばかりは穏やかな顔をしていた。
その穏やかな顔で、月彦は左右にかぶりを振った。
権城は悟った。
何を言っても無駄だと。
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ブツブツ……ブツブツ……
「まだメンバーの件で愚痴を言っているのですか?権城さん」
翌日の演劇部の活動で、権城が舞台セットを野外で作っていると、ジャガーがにっこりと笑って話しかけてきた。
権城はブスっとしたままで、カンカンと釘を打ち続ける。
「だって……おかしいだろ……仮にも主将が幽霊部員なんだぜ……それに対して監督も何も言わねぇなんて……ふざけてんだろ……」
「まぁまぁ。人にはそれぞれ、前提がありますから。自分の前提からしたらあり得ない事でも、平気で起こってしまったりするんです。他人と関わっていると。」
ジャガーは遠い目をした。
同い年だと言うのに、ジャガーはやたらと達観している。それには感心する反面、権城としてはもっと怒れよっていう気にもなってしまう。
「こっちでも、しっかり雑用だし、だんだん嫌んやなってきたよ。こっちが雑用なのはまぁ、当たり前なんだけどさ」
「…………」
演劇部の7月公演には、勿論の事ながら入部して間もない権城は出演できない。
まだそんなレベルではなく、中等科の後輩を出した方が余程上手く回る。そして、後輩達は存外に優秀なのだ。よって権城は今、道具係としてセットを作っている。
「まぁ、そう腐らないで。いつか権城さんも輝ける時が来ますから。まだまだ青春、始まったばかりですよ。」
ジャガーはにっこりと微笑んで、その場を離れて行った。もしかしたら、愚痴ばかりの権城に愛想を尽かしたのかもしれないが、微笑みを見せてフォローしてから去る辺り、ジャガーは優しい。
コロコロ……
ふとそこに、ボールが転がって来た。白く光沢のない表面、ブツブツしたディンプル、赤くない縫い目。久しぶりに見る、軟式ボールだった。
「すいませーん!」
野球場の方からトコトコと、中等科の生徒が駆けてくる。どうやら、中等科の野球部のボールらしい。それにしても、こんな所まで転がるとは、一体どんな暴投をやらかしたんだか。
「……中等科の野球部か。」
権城はふと立ち上がった。
仕事はまぁまぁ進んでいた。少しくらいサボっても、良いだろう。
ーーーーーーーーーーーーーー
「あれ?姿達が居ない?」
野球場にフラッと入っても、姿や楊姉妹の姿は無かった。確か、彼らも野球をしていたはずだが、今日は居ないのだろうか。
その代わりに、意外な人物が居た。
「あれ?」
「…………」
いつか、煤で汚れたシャツを洗ってもら
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