第百七十話 信長と信玄その十二
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「茶のことは」
「まだか」
「はい、わかりませぬ」
やはり素直に述べる。
「どうにも」
「ならより嗜むことじゃ」
「そうしてわかるものですな」
「剣や槍と同じじゃ、進めばな」
「進むだけですか」
「わかってくる、では茶もな」
「はい、励みます」
幸村は信玄に約束した。やはり素直である。
「そうさせてもらいます」
「そうせよ」
「はい」
「御主はよい頃に生まれた」
山本はその幸村を見て言ってきた、今度は彼だった。
「実にな」
「今に生まれたのがですか」
「よかった、遅れていればな」
生まれてきたのが、というのだ。
「川中島で我等はより大きな傷を受けておった」
「典厩は死んでおったな」
信玄も言う、川中島でのことを思い出しつつ。
「あ奴に勘助もな」
「はい、それがしもまた」
「二人は御主が救った」
幸村は川中島で獅子奮迅の働きをした、そのうえで謙信の車懸りの陣で崩れようとする武田軍を守ったのだ。
その中でだ、信繁も山本もだというのだ。
「御主の奮戦でな」
「左様でありましたか」
「二人がおらねば困る」
信玄としてもだというのだ。
「典厩はわしの弟であり片腕じゃ」
「はい、典厩様がおられると」
どうかとだ、高坂も言う。
「かなり違います」
「うむ、わしはいつも助けてもらっておる」
信玄はまた言った。
「政でも戦でもな」
「どちらでもですな」
「あ奴の助言、働きでな」
「違っていますな」
「わし一人では何も出来ぬ」
一人で出来ることは限られているのは信玄も同じだ、だからだ。
「御主達も必要でな」
「典厩様もですな」
「そうじゃ、よく典厩を救ってくれた」
信玄はあらためて幸村に言った。
「この信玄礼を言うぞ」
「勿体ないお言葉」
「しかも勘助も救ってくれた」
山本についても言うのだった。
「本当に助かっておる」
「わしはあの時死ぬつもりじゃった」
計を見抜かれた、その自責の念から死でその責を償おうとも思ったのだ。だがそこで幸村に救われてだったのだ。
「戦の後で御主はわしに言ったな」
「はい」
「わしが武田家に必要だと」
「その通りです」
「そして生きてこの責を償ってくれと」
「勘助殿が責を感じておられるなら」
そうしてくれと言ったとだ、幸村も認める。
「それがし確かに言いました」
「それでじゃ、わしは腹を切らずじゃ」
生きて償う道を選んだ、それでだというのだ。
「駿河攻めでも先の戦でも御館様のお役に立てた」
「生きているが故にですな」
「あの場はわしの死に場所ではなかった」
今こう言う山本だった。
「今はそれがわかる」
「ではこれからも」
「死に場所は自然と来る」
だからだというのだ。
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