第百七十話 信長と信玄その七
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「明日の夜、皆で酒を飲みたいんおう」
「全くじゃ、美味い酒をな」
「明日の夜にはな」
無論生きてである、彼等は勝って勝鬨をあげることを期待していた。そのうえで今は武田の軍勢が来るのを待った。
そしてだ、織田軍の前に夕刻になってだった。
赤い軍勢が姿を現した、皆その軍勢を見て総毛立った。
「来たか、遂に」
「あれが武田か」
「天下で最も強いという軍勢か」
「あの連中が」
諸将も足軽達もだった、誰もが。
その赤い軍勢と風林火山の旗、それに武田の家紋の旗を見て総毛立っていた。だが信長だけは違っていた。
馬上から彼等を見てだ、確かな笑みでこう言うだけだった。
「来たな、いよいよじゃ」
「殿、いよいよとは」
「どういうことですか」
「戦じゃ」
それがはじまるというのだ。
「明日な」
「今日はですか」
「ありませんか、戦は」
「間もなく夕刻じゃ」
時のことから言う信長だった。
「このまま戦はな」
「入りませぬか、今日は」
「だからですか」
「うむ、武田はまだ攻める陣ではない」
進む陣だった、確かに武田は陣を瞬く間に整えられるがここまで一気に来たのだ。そして多勢の織田軍に急場の陣ではというのだ。
「まだ来ぬ、そして我等はな」
「攻められませぬな、こちらからは」
「そうした陣ですから」
「そうじゃ、お互いに攻められぬからな」
だからだというのだ。
「今はじゃ」
「戦にはなりませぬか」
「今日は」
「明日じゃ。明日の朝じゃ」
その時になるというのだ。
「今ではない」
「では今はですか」
「休んでよいのですか」
「夜襲には気をつけよ」
それは来るかも知れない、だからだというのだ。
「よいな」
「わかりました、では」
「今はですな」
「夜襲に気をつけたまま」
「そのうえで」
「休め」
今はというのだ。
「よいな、明日に備えて」
「そして殿」
山内がここで信長に問うてきた。
「明日の朝の何時に戦となるでしょうか」
「早いぞ、日の出と共にじゃ」
「敵は来ますか」
「そうなるわ、だからじゃ」
「飯はですな」
「夜が明ける前に食っておくのじゃ」
つまりその前に起きておくというのだ、皆。
「よいな、ではな」
「はい、それでは」
「そうせよ、それではな」
「明日ですな」
「戦じゃ、手柄を立てるがよい」
その戦の中でだというのだ。
「よいな」
「それでは」
こうした話をだ、信長はした。今織田家と武田家のそれぞれの軍勢が対峙した。そして信玄は信長の読み通りだった、この日は全軍にこう言ったのだった。
「明日じゃ」
「明日ですな」
「明日の朝ですな」
「うむ、戦じゃ」
その日に攻めるというのだ。
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