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イデアの魔王
第七話:不思議な少女
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 『イデア原本』
 とある辺境の地で発掘され、人々によってそう名付けられたそれは、何も魔力の宿った魔道書だとか、魔術の使い方が記された文書と言った類のものではない。 それはこの世界のありとあらゆるエイドスを見通す、全知の(イデア)の中心核だった。

 世界に広がる無限の可能性を認知し、それに干渉する神の力。 人々は何とかしてこの『原本』の力を利用しようと考えた。

 しかし、結果としてそれが成功する事はなかった。

 あまりにも純粋に、驚くほどに簡単にこの世の真理に直結するそれは、しかしその単純さ故に、人間の複雑怪奇な思考回路で理解する事は不可能で、それでも無理に真理へと触れようとした者はことごとく気が狂って廃人と化し、またある者は人とは違う他の何か(・・・・)へと変貌する。

 人々は、原本(オリジン)の力を手中に収める事を諦めた。

 しかしその代わりに原本(オリジン)からほんの、ほんの僅かな上澄みだけを、原本の内に秘める真理を覆い隠す上辺でしかないそれを汲み取り、写本(コピー)を作り出す事で、模倣的に原本と相似した力を操る術を手に入れたのだ。

               ◆

 『――イデア写本、封緘(ふうかん)解放』

 その場にいる生徒全員の意識が集まる食堂の片隅で、俺が『写本』の封を解いたその時だ、周囲のギャラリーの中から、一際大きく俺の名を呼ぶ声が聞こえた。 

 「桜花!何してるの!?」

 見れば小望が、そのとろんとした目をほんの少しだけ吊り上げて何か言いたげに俺を睨んでいる。 その隣では京介が、何があったんだと言うような表情で俺と城山を交互に見つめていた。

 「ケンカしないって言ったでしょ!それに写本まで解放して……」
 「口で言ってもわかんねーってんだからしょうがねえだろ、俺だってこんな事やりたかねえよ」

 そう言って乱雑に髪を掻き毟る俺。 小望は未だ納得していないと言ったような表情でじっと俺を見つめてきたが、その後小望が何か言うよりも先に俺の後方で怒声が上がった。 

 「何ごちゃごちゃ言ってやがる」

 俺が渋い顔で振り返れば、そこでは丁度右腕をふりかぶった城山が一直線にこちらへと突進して来る所であった。 その丸太のような腕は青白く発光しており、恐らくは身体強化系の魔術をかけているのだと推測できる。

 「そっちがこねえなら、こっちから行くぞ!」

 後ろに人だかりがあるにも関わらず勢いを弱める素振りすら見せず突っ込んで来る城山、少しは後先と言うものを考えられないのかこいつは。 背後からは生徒達のざわめく声と、小望の小さな悲鳴が聞こえる。

 「きゃ……」
 「ちっ!」

 流石にこの状況で避けるワケにもいかないだろう。 俺は舌打ちを
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