Episode28:出発と歯車
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ヤとこちらに笑みを向けてくる真由美から目を背けるように、鈴音もまた、目を瞑った。
☆★☆★
「市原は九十九にデレデレだな、まったく」
溜息混じりに呟いたのは、肩を寄り添って眠る隼人と鈴音の斜め後方に座っている摩利。
三年間の付き合いで磨かれた摩利の目は、無表情ながらニヤついている鈴音をバッチリと確認していた。
「へぇ…なんか意外ですね?」
摩利の呟きにそう返したのは、彼女が最も目をかけている後輩である千代田花音であった。
彼女は先ほどまで許婚であり、今回の九校戦では技術スタッフとして参加している五十里啓が作業車両の方に乗り込んでしまったため、彼女が期待していたバス旅行ができないということから、かなり不機嫌だったのだが、延々と愚痴を吐きまくって満足したのだろう。
心の整理をつけた花音は自身の持つイメージにそぐわない鈴音の姿に疑問を覚えた。
「確かにな。あいつは、魔法理論と学校貢献以外のほとんどには興味を持たないからな」
しかし、花音が何故と真っ先に思ったのとは裏腹に、摩利はなにか裏があるのだろうかと探っていた。
あの鈴音が、出会ってまだ半年も経っていない少年にあそこまで心を開くものなのかと。
もしかしたら、鈴音と隼人は昔なんらかの形で知り合いであったという可能性もなくはない。だがそれでは、隼人のまるで初対面ですといった態度が不自然だ。となると、人違いか、あるいは−−
「摩利さん?」
「っ、あ、あぁいや。すまない、少し惚けていた」
考えすぎか、と摩利はこれまでの思考を全て破棄することにした。
どうにも暑さにやられて思考が正常に働いてないらしいと自己判断を下した摩利は、気分転換も兼ねて窓の外を眺めた。
だから、それに気づいたのは摩利が最初だった。
「危ない!」
彼女の声につられ、バス内のほぼ全員が対向車線側の窓へ目を向けた。流石と言うべきか、その中には隼人と一緒に眠っていたはずの鈴音の姿もある。
対向車線を近づいてくる大型のオフロード車が、傾いた状態で路面に火花を散らしていた。
「パンクだ!」
「脱輪じゃないか?」
しかし、一校生の乗っているバスと、そのオフロード車の間には堅固なガード壁が築かれている。対向車線の事故でこちらが被害を受けることはありえない。故に、その声に危機感はない。この事件は彼らにとってはただの見世物に過ぎなかった。
しかし、バス内に流れた興奮気味な空気は、一瞬で緊迫したものへと変化した。
突如として、今までただの見世物だった対象がスピンを始め、ガード壁を宙返りしながら乗り越えてこちらに吹き飛んできたのだ。
バスに急ブレーキがかかり全員が体制を崩す中、たった一人、慣性の法則を無視するようにバス
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