Episode28:出発と歯車
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る様子だった。
まあ、もう少しすれば達也が切り上げてくれるだろうと判断し、バス内をぐるりと見回す。
「私服の人多いなぁ」
今日は宿舎に入るだけで、公式行事は一切ない。そのため、制服の着用は義務付けられていない。
まだ一年生は初ということで制服の生徒が多かったが、隼人を含め私服の生徒も少なからずいる。また、二、三年生は半数以上が私服であった。
ちなみに隼人は、青い半袖のTシャツに白いノースリーブのパーカー、下は黒のハーフパンツという装いだ。
「そういえば…」
もう一度バス内をぐるりと見回してみる。まずい、と隼人の顔が青褪めた。
エイミィはスバルや紅葉と固まって座っている。また、雫やほのか、深雪も三人で。森崎もA組の生徒と。鋼は選手ではないためここにはおらず、他のB組生徒は散り散りとなり各々の友人達と談笑している。
「……一人」
ぽつり、と呟いて隼人は絶望した。
そう、いないのだ。これから二時間、バスの中で共に語らい、思い出を作り合う仲間が、友が。これほどの絶望感があるだろうか。これから二時間以上、彼は一人でなにをすればいいのか。脳裏に「おめぇの席ねぇから!」と誰かに言われた気がするくらい、隼人は絶望に打ち拉がれた。
と、そんな時。
ツンツン、と隼人の肩をつつく手。
「よろしければ、隣どうですか?」
そう言って指し示されたのは、鈴音の隣の席。その誘いに隼人は歓喜し、二つ返事で頷いた。
☆★☆★
の、だが。
「………?ぅ…」
バスが走り始めてから十分程。あまりバスに乗らないせいで慣れてないからか、早くも隼人はバス酔いに陥っていた。もはや、思い出をつくるどころではない。
喉元までせり上がってくるものを必死に押しとどめながら苦しげに呻き声を漏らす彼の姿は、恋する青年を真由美と共に一頻り弄り倒した鈴音の目に留まった。
顔を青褪めさせる隼人の姿を見て状況を察した鈴音は、仕方ありませんねとでも言いたげな表情を浮かべてから隼人の隣の自席へと腰を下ろした。
「辛かったら眠ると楽になりますよ」
「う…先輩…?」
「まだ時間はあります。無理に起きていても、辛いだけだと思いますが」
それを聞いて、隼人はぐったりとしていた体制から起き上がって息を長く吐いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。なにか用があれば起こしてください」
「ええ、おやすみなさい」
そして、ゆっくりと目をつむる隼人。
彼が寝息をたてるまで、そう時間はかからなかった。
「……っ」
しばらくバスに揺られているとコテン、と隼人の頭が鈴音の肩に乗った。思わず赤面しそうになるのをなんとかいつものクールフェイスに押し留めて、鈴音は体から力を抜いた。
ニヤニ
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