Episode28:出発と歯車
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だ負けるわけにはいかないよ」
自慢げに言う隼人はまるで小さい子供のようで、その姿に森崎は少しの呆れを覚える、と同時に喜びを感じてもいた。
『弟子』。本人はなにも意識せずそう言ったのだろうが、隼人のことを尊敬している森崎としてはこの言葉の意味はとてつもなく大きい。
「…いつか、絶対に超えてやる」
「ま、楽しみにしてるよ」
内心の喜びを必死に隠して、せめて悪態をつくが、隼人はどこ吹く風とその足を森の出口へと向けた。
☆★☆★
八月一日といえば、九校戦へ出発する日である。
富士演習場南東エリアにて九校戦は行われるが、遠方から来なければならない八校や九校とは違い東京の八王子市に位置する一校は、例年通り前々日のギリギリに宿舎入りすることにしている。
これは戦術的な意味と言うより、現地の練習場が遠方校に優先割り当てされる為である。
本番の会場は競技当日まで下見すらできない立ち入り禁止なので、あえて早めに現地入りする必要もない。
と、摩利の説明を脳内でまとめた隼人は、うだるような暑さから逃れるように白い生地のパーカーのフードを目深に被った。
暑いのなら冷房の効いたバスの中に入ればいい話なのだが、風紀委員として出席チェックを担当している隼人と達也、そしてそれを監督する摩利はそれを許されていない。ちなみに、摩利はちゃっかり日傘の中に入っている。
集合時間から遅れに遅れ約一時間三十分。
端末に表示されるリストは一人を除いて全員の名前にチェックが入っている。
と、隼人と達也の鍛えられた聴覚は遠くから鳴るサンダルのヒール音を捉えた。
事前に遅れると連絡を貰っていたものの、いつ来るかわからず、やっと来た、と二人は顔を見合わせて苦笑いをする。
「ごめんなさ〜い!」
やっと涼しくなれる、と安堵の溜息をついてフードを外す隼人。無言で汗一つかかずに、というか汗を発散させる魔法を使って、リストにチェックをいれる達也。摩利は溜息混じりの笑みを浮かべた。
「真由美、遅いぞ」
「ごめんごめん」
「んじゃ達也、俺はバス内の点呼をとってくるよ」
「ああ、頼む」
最終チェックをしている達也を置いて、大型バスに乗り込んで行く三人。
と、なにかを思い出したのか真由美はバスから降りて達也の元に向かっていった。
「まあ、いっか」
点呼とは言っても一旦はバスの搭乗前にしたこと。隼人の仕事は人数を数えることだけだ。
「えーと…」
選手41名、作戦スタッフ4名、技術スタッフ8名。うち、技術スタッフは作業車両に乗り込んでいるため、このバス内にいるのは真由美を除けば44名だ。
全員を数え終え、チェックを済ませた隼人がバスの外を覗き見ると、達也と真由美はまだなにやら話してい
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