第四話:生徒机上のイデア論
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「突然ですが皆さん、植物は生き物と呼べると思いますか?それともそうでないと思いますか?」と言うのは俺が小学校三年生の時、生物の授業でのクラス担任の言葉だった。
教師の問いに、クラスの児童達は迷う事もせずに『呼べると思いまーす』と答えたが、俺だけは『呼べないと思います』と一人反対派として手を挙げた。 とは言えいくら当時小学生と言えど、生物学的には植物が生物のくくりに入る事など知っていたし、俺は何も自分の無知でそんな事を言ったワケじゃない。
周りの児童たちが『バッカでー』と俺を見てクスクス笑う中、担任は苦笑いをしながら俺へと語りかけた。
「桜花くん、残念だけど君の間違いよ」
「なぜですか?」
「植物は私達人間や、動物と同じように呼吸したり、地面の土から食事……エネルギーを得ながら成長するれっきとした生物なの」
そんな担任の至極まっとうな返しに、普通の生徒ならすぐさま納得していたのだろう。 しかし俺はその言葉に尚納得の行かないものを感じ、教師に問いを返した。
「先生、それなら植物は生き物じゃなくて機械と呼ぶべきじゃないんでしょうか? 人間や動物は考えや心を持って動くけれど、植物には脳みそも心もないでしょう? 何も考えず、ただエネルギーを使って動き続けるだけならそれはどちらかと言えば機械に近いものだと思います」
その俺の問いに、教師は困ったような顔をし……そして最終的には「それでも生物学……そうね、生き物図鑑の上では、植物は生物と言うくくりに入っているし、みんな植物は生き物の中に入るって言ってるのよ」と答えになっていないような答えではぐらかされた。
そしてその授業で俺は、一つだけ新しい事を知った。
それは別に『植物は生物のくくりに入る』と言う知識を得た事などではなく、『皆がそうだと言えば世界はそうなるものなんだ』と言う事だ。
皆が是と言うのだから、是。 皆が非だと言うのだから、非。
教科書のページに載っている植物は、皆が生き物だと言うから生き物になる。
皆が猫だと言うから猫は猫なんだし、犬だと言うから犬。
今俺の目の前で壇上に立つ先生は、皆の目から見て大人だから大人と言う事になり、俺達生徒は子供と認識されるから子供だと言う事になる。
――じゃあ、皆が植物を機械だと思えば植物は機械になって、猫を犬だと思えば犬になるのかな?
そんな事を考えながら、実験とばかりに目の前の教師を凝視し『あの人は子供で、俺は大人だ』と強く思ったが……もちろんそんな事で教師が子供になる事も俺が大人になる事もなく、見開いた目には埃が入りそうになったので俺は教師から目をそらし、何の気もなしにノートを取る作業に戻った。
勿論、この時の俺はそんな考えが『イデア論
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