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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第五十話 かくして宴は終わる
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が今、この瞬間、御国の命運を握っているのだ!!」
 美倉准将は任官してから、初めてと言って良いほど将校たれ、と振舞っている。
 兵達を叱咤し、激励し、前へ、前へ、と進めていく。将校の基本の基であるが、だからこそ一種の壮麗さを感じさるものだった。

「閣下!」
 幕僚長が美倉へと駆け寄る。
「何事か!」
 興奮しきった美倉が吠える。この男も魔王の如き男に引き摺りまわされ狂いかけているのかもしれない。
「龍兵です!此方に向かっています!」
 幕僚長がそう答えるのとほぼ同時に、第三軍の砲兵達を追い散らしたモノ共の鳴き声が響く。
「失礼します!」
 幕僚長が体ごとぶつかり、美倉は茂みへと叩きつけられる。
 ――爆音が響き、熱風と共に、美倉の意識は吹き飛ばされた。



同日 午前第六刻半 第21師団司令部
師団長 アンドレイ・カミンスキィ少将


「見事だ、諸君!君達の忠勇は我らがユーリア殿下の威光と共にこの世界に遍く伝えられるだろう!!」
 師団長であるカミンスキィは笑みを浮かべ、兵達を鼓舞している。
 だが、彼が兵達へ背を向け、司令部天幕へと向かう時にはその微笑は消え、腸を煮込む熱を顔面に浮き出させていた。
 ――この勝利は確かに、彼らの忠良がなければ存在しないものだった。だが、その決定打を齎したのはあの龍兵達だ。
 司令部を守りきったのは自分だが、その引き換えに敵軍主力の攻勢を防ぐ事ができず。既に敵の攻勢は追撃を困難なものとするところまで我々を追い込んでいる。
 ――俺は今、この瞬間、天下に恥を晒したようなものだ。
 カミンスキィは辛うじて激怒を表面化する前に殺し、現状の確認を行う。

「アルター参謀長、現状の報告を」

「はい、閣下。護衛についていた部隊はほぼ壊滅。胸甲騎兵聯隊は被害把握が済んでいる限り、約五割が死傷しております。猟兵部隊の損害は三割程です、現状では追撃は不可能です」
あの猛獣使いの部隊は龍兵の攻撃とほぼ同時に散開しながら後退を行っている。
まったくもって予想通りの返事に唸り声がもれる。
「つまり、だ。連中は我々の指揮能力の無効化にまんまと成功した挙句に逃げ果せたわけだ」
 カミンスキィの怒りを込めた視線を見たアルターはどのような者が師団長となったのかを改めて知り、僅かに身震いした。
「――アルター君、すぐに師団の損害確認をとってくれたまえ」
 震える拳を握り締めながら、若き少将は兵達へ将器を示すべく、歩み出て行った。



同日 午前第六刻半 龍口湾南部戦域前線より約三里後方 集成第三軍司令部
第三軍司令長官 西津忠信中将

「――閣下、宜しいのですか?」
豊浦参謀長が西津司令官へと尋ねる。

「宜しいも宜しくないもあるまい。つまるところ、我々は敗北
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