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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜5
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ない。目をそらさずに見つめ返す。
「まぁ、いいだろう」
 しばらくして、少年は言った。それと同時、右手を突き出す。私達をとらえていた氷が――氷を形成していた魔力が、彼の腕に吸い込まれていく。
「取引をしよう」
 解放され、慌てて間合いを開いた私達に、その少年は落ち着き払った声で言った。




「どの道大した手間じゃあない」
 なのはと同い年ほどの少女に剣を突き付けるのは、あまりいい気分ではない。それが本心だった。とはいえ、相手は魔導師だ。油断はできない。敵となるなら、この場で殺す。その覚悟を決めた瞬間――多少の気負いがあったのだろう。腕に僅かに力がこもり、彼女の細い首筋に僅かに刃が滑り込んだ。本人も気付いたかどうか分らない程度の、ほんのわずかな赤い雫。それが、きっかけだったのだろうか。
「ぐ、あ……」
 突如として右腕が燃え上がった。そう錯覚するほどの熱が――衝動が右腕から全身へと浸蝕していく。この感覚を知っていた。あの日……ジェフリー・リブロムの全てを受け継いだあの時から。だからこそ、困惑する。
「何、だと……?」
 右腕が変化していた。長らく共にあった『マーリン』の腕ではない。殺意に黒々と燃え上がるジェフリー・リブロムの右腕。彼女を生贄としたその日から、彼と共にあったその右腕だった。だが、一体何故? 何故今さら現れる?
 彼らはもう、この腕にはいないはずなのに。なのに、一体何故。
(意味がある。必ず意味がある……)
 右腕の変化は、錯覚だったらしい。衝動の波が通り過ぎた後に残っていたのは、今の自分の右腕だった。それを握りしめ、呟く。
(この衝動には、必ず意味がある)
 今も燻ぶる殺戮衝動は錯覚ではない。まともな世界の全てを憎み、妬み、憎悪した彼女に由来するその衝動は、今も右腕で燻ぶっている。
(何故だ。この子の何が原因なんだ?)
 記憶にある彼女と、目の前の少女が似ているのは、精々髪の色くらいだろうか。その程度で引き金となるなら、自分はとうの昔に怪物に成り下がっている。
「もう一度聞くが、お前達は一体何が目的なんだ?」
 右腕の彼女は何も教えてくれない。だから、今目の前にいるこの少女をここで死なせる訳にはいかなかった。接点を失う訳にもいかない。この殺意が、一体何に由来するものなのか。それを確かめるまでは。
(下手をすれば、優先順位を書き換える必要もあるか……)
 このまま殺戮衝動が膨れ上がるならば。自分が本物の怪物に成り下がる前に、彼女の正体を明らかにする必要がある。気は進まないが――最悪はジュエルシードの使用をも考慮に入れなければならない。こんなところで、魔物に堕ちる訳にはいかない。
 この世界で、堕ちた自分に対処できる可能性があるのは、おそらくなのはだけだろうから。
「訊き方が悪いか。つまり、
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