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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜5
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で、お前たちもこの宝石が狙いか?」
 片手でジュエルシードを弄びながら、少年は言った。一見して隙だらけのように見えた――が、動けなかった。僅かでも動いたら、このまま首を斬られる。それを、理屈ではない部分が理解していたから。
「動くなよ」
 今さらの制止。だが、それは私に向けられたものではない。彼の死角で、何とか抜けだそうとしていたアルフに向けてだった。
「まぁ、お前の飼い主の首がなくなってもいいと言うなら止めはしないがな」
 静かな声。何の高揚もない事こそが、むしろ恐怖を誘った。隙だと錯覚するほどの自然体。それはつまり、ほんの僅かな躊躇いも無く、彼は私達を殺せるという事だ。それを、理解せずにはいられなかった。
「だんまりを決め込むのは勝手だが……俺も今日はいくらか機嫌が悪い。手元が狂っても恨むなよ?」
 その恐怖を見透かしたように、彼は浅く笑った。
「今、ここでなら目撃者を気にする必要はない。それに、死体の処理に頭を悩ませる必要もないからな。……いや、それに関しては元々悩む必要もないか。どの道大した手間じゃあない」
 冗談のように笑って見せる――が、冗談ではない。全く冗談にもならない。この少年は、明らかに格上の存在だった。それに加えて最大の武器であるスピードまでを完全に封じられた今の私では、どう足掻いてもこの状況を覆す事などできそうにない。
 魔法文明のないはずのこの次元世界で、まさかこんな相手に出くわすなんて。
(ごめんなさい……)
 声にせず呟いたその時――突然、黒衣の少年が苦しみ出した。
「何、だと……?」
 自分の右腕を掴み、驚愕の声をあげる。いや、驚愕のあまり絶句したらしい。何が理由なのか、分からない。包帯に包まれたその右腕の一体何をそんなに驚いたのか。
 だが、それが何かのきっかけになったのだろう。その少年が再び私を見た時、様子が一変していた。
「もう一度聞くが、お前達は一体何が目的なんだ?」
 感情のある、穏やかな声。その声は、全く別人のように聞こえた。困惑していると、彼は頭を掻いてから言いなおした。
「訊き方が悪いか。つまり、この宝石を集めて一体どうしたいのか、と言うのを聞きたいんだが……」
 どう答えるべきなのか。アルフと視線を交わす。それを警戒と判断したのだろう。彼は肩をすくめて見せた。
「分かった。それじゃあ、まずはこれだけ答えてくれ。お前たちは、この世界の住民を犠牲にする、もしくは巻き込む気があるか?」
 声にいくらか険しさ――というより、無機質さが戻っている。このまま黙っていれば、今度こそ殺されかねない。
「ありません」
 つぅ、と少年の目が細くなる。どんな嘘でも見透かされる。そんな気分にさせられた。
 だが、嘘などついていない。私達は殺し合いなんてしない。……できれば、誰も傷つけたく
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