第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
22.Jury・Night:『Howler in the Dark』T
[16/17]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
響き渡る足音、呼吸の音。酷く乱れていて。街灯、チカチカと明滅する。哄笑しているかのよう。
拳銃を向けられた事にも、気付いてはいない。気付いたとしても、『ソレ』に止まる選択肢はないのだが。
街灯の光が、遂に消えた。辺りを覆う闇に、嘲笑う虚空に。この闇の中で襲われれば、一溜まりもない。だからその引金を、いち早く引いて――――
『『――――駄目。駄目よ……良く、良く見てあげて』』
「――――良く、見る……?」
恐怖に竦もうとした、右の人差し指。その掌、拳銃を握り締める右手を――――温かなものと、冷たいもの。二つの右手の感覚が、包んで止める。
見えたような気がした。己の右腕に重なって。薄い、黄金と純銀の――――しなやかな、二本の右腕が。
その、刹那――――虚空に浮かぶ月が、全てを映す。危うく引きかけたトリガーから、指が離れる。
拳銃を構えた嚆矢も、その直ぐ脇で『燃え盛る三つの眼差し』を彼に向けながら嘲笑う『彼の影』も。
「な――――」
「――――はぁ、はっ、はぁ……」
そして、走り続け――――嚆矢にぶつかり、抱き止められる形で、漸く足を止めた彼女も。
「――――飾利、ちゃん!」
「はぁ、はっ……嚆矢、先輩……だめ、先輩!」
虚ろな眼差しが、此方を見る。認めて、安堵したように。だが、直ぐに――――恐怖に、表情を強張らせて。
「逃げて――――逃げないと、追い付かれちゃうから……あれに!」
その言葉が、呼んだかのように。『ソレ』は、現れる。濃密な闇、掻き分けて泳ぐように。
『____________!』
「――――」
悍ましい咆哮に、知らず息を飲む。怯える飾利の震えを止める程に、強い力で抱き竦める。決して、下心など無い。そんなもの、この根源的な恐怖の前では塵と同じ。
這い出てきた、黒い異形。酷く乱雑に人を模したような形、だが、それを認めてはいけない。円錐形に長い頭、眼はない。かわりに、顔の半分が口。狂い果てた吠え声を上げる為だけに在るような、黒い化け物。
『 ツ カ マ エ タ 』
「チッ――――!」
その怪異に気を取られたのが、最大の失敗。何故なら――――足許。くぐもって響いた声は、今正に嚆矢が立っている『マンホールの中』から。
もう、遅い。間に合わない。既に鉄の蓋、震えていて。
『 キ サ マ ニ モ ミ セ テ ヤ ル ヒ ゲ キ ノ サ キ ニ マ ツ モ ノ ヲ 』
嘲笑っている、影が。『愚かな生け贄よ、我が聖餐よ』と。三つの眼差し、燃やして。
『ク ル ー シ ュ チ ャ ホ ウ テ イ シ キ ヲ ホ ン モ ノ ノ カ ミ ヲ 』
開いた、奈落
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ