第四話
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すべて残しているイノシシはそれだけでは倒れない。普通に倒すならもう一撃は必要だろう。故に俺は、ほぼ自動的に動く左腕に少しだけ力を加えた。
鼻先あたりに向かっていた光線がわずかに曲がった。
輝く短剣は当初の予定とは全く別の軌道を描き、イノシシの顔をかすめると、その首筋をザシュッという効果音と激しいダメージエフェクトを振りまいて通過した。
クリティカルだ。
当然、たかがレベル1のイノシシがその膨大な被ダメージに耐えきれるだけのHP(ヒットポイント)を持ち合わせているはずもなく、たちまち頭上のHPバーを空にすると、その体をぱしゃりとポリゴン片に変え、空中に溶けた。
それを見届けると、俺は喉に詰まった息を吐きだし、同時に目の前に浮かび上がった先の戦闘の成果を示すウインドウを見つめた。瞬時に目を加算経験値まで持っていくと……なんと偶然、初のレベルアップに必要な分ぴったりだ。
たちまちレベルアップを告げるファンファーレが響き、レベルが一つ上がった俺は、短剣を腰の鞘へ納めると背後を振り返り、感心しているのかぱちぱちと手を叩くシーラに、本日二度目のドヤ顔を送った。
「どや、レベル上がったぜ!」
「あたしは十分前に上がったけどね」
返しのその一言に、一瞬ぬっとなる。確かに少し前、俺の耳にもファンファーレの音が入ってはいたが。
「そりゃお前が元ベータテスターだからだ!素人の俺と比べるんじゃない!」
「えー、でもユウ、結構うまいよー?素人からはもう卒業の時期だと思うなー」
「う……ぬう……」
完璧に返してやったと思ったが、詰めが甘かったらしい。美少女アバターの笑顔で褒められただけで言葉が出なくなってしまうとは……まだまだ修行不足か。
途端に発生した敗北感と気恥ずかしさをこらえきれず、俺は顔を伏せてしまう。それを見とめ、勝利と取ったか、聞こえてくる勝ち誇った鼻笑い。それに俺の感情の何やらはすぐさま吹き飛ばされ、おこだからねと目尻をぴくぴくさせながら顔を上げると、いつの間にか近くの岩に腰を下ろしていたシーラが、自分のウインドウをいじくり、首を傾けた。
「で、どうする?けっこうコルも貯まったし、街に戻って防具のほう揃えちゃう?それとも、もうちょっと強いとこで狩り、続ける?」
「ん……そうだな……」
ひたすらのイノシシ狩りから脱出するという意見には確かに賛成だが、正直、初期配布されたポーションの残りが心もとない。短剣に使い果たした金も今現在800まで増えたので、防具に手を付けてみたい気もしないではないし、ポーションの補充という意味でも、ここは一度町に帰るべきなのだろうか。
回復できずに死んだところで、町のどこかで生き返るのだろうが、基本『いのちだいじに』で行動する俺に、死に戻りは性に合わない
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