第一話:贖罪の剣
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店仕舞いを終えたリズベットとレンは向かい合うように座っていた。
ただし、リズベットは椅子に、レンは床に、だが。
「……ちょっとヤボ用でな。しばらくの間、迷宮区に篭ってたんだ」
「? ふぅん…」
俯き気に答えたレンの、いつもと違う様子に疑問を浮かべたリズベットだったが、たまにはそんな時もあるかと自分を納得させた。
「ところで、頼んでおいたのはできたか?」
「えぇ、もちろん。ちょっと待ってなさい」
椅子からすっと立ち上がって、リズベットは足早に工房の奥に走って行った。
少しの物音がして、リズベットが両手で漆黒の剣を持ってやってきた。
「これがアンタが頼んでいった片手用直剣《エスピアツィオーネ》よ。要望通り重量は軽め。アタシ会心の出来よ」
両刃に、十字柄。黒い刀身に十字架の刻まれている剣をリズベットから受け取って、レンは食い入るようにその刀身を見つめた。
「…綺麗な剣だな」
「でしょ?アタシの最高傑作のうちの一つなんだから、大事にしなさいよ」
「おう、そうさせてもらう」
そう言って、エスピアツィオーネをアイテム欄に仕舞い込むレン。彼は、彼自身の持つスキルによって武器の装備は必要なくなっているのだ。
「サンキューな、リズベット。これで、もっと攻略に集中できそうだ」
顔に嬉しそうな笑みを浮かべてそう言うレンに、リズベットはどこか怪訝そうな表情をした。
「…無茶はするんじゃないわよ」
そんなリズベットの内心の戸惑いに気づかなかったのか、レンはそのまま床から立ち上がった。
「無茶無謀は押し通してこそ。こんな世界なんだ、やれることはやれる時にやっときてぇ」
それはいつも彼が言っていたセリフだった。リズベットがこのプレイヤーホームを諦めずにコツコツとお金を溜めて買えたのも、やっとの思いでここに武具店を開けたのも、彼のこの言葉に後押しされたのが大きかった。
だからこそ、リズベットの記憶の中にはそのセリフを口にする彼の姿が色濃く残っていた。
風に靡く黒髪、強い意志を宿した紅蓮の双眸、自信をその身で体現しているかのような不敵な笑み。そして右手に携えた一振りの剣。まるで伝説の勇者のような、そんな貫禄を纏う彼の姿。
だからか、リズベットは今の彼の姿に疑問を覚えた。
黒髪は変わらず、紅蓮の双眸もそのままに、表情も相変わらず笑みを浮かべている。だが、ナニカが足りない。決定的ななにかが、彼から欠損しているとリズベットは思った。
「じゃあな、リズベット。良い剣をありがとよ」
「っ…あ…」
気づいた時には、レンは既に扉へ手をかけていた。背を向けて手を振る彼の姿に、何故か、リズベットは声をかけることができなかった。
† †
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