暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の3:サバイバル、オンボート
[7/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
呼吸の後、その掌を通じて神秘的な光を抱いた赤色の古めかしい文字列が、杖を蛇のように走っていく。一秒も満たぬ内に光は杖の宝玉へと辿り着き、チェスターが手を離した瞬間、宝玉から火薬の爆発のような炎が噴出した。

「ふぉごっっっっっ!?!?」

 強烈な重力を感じながら、アダン達を乗せた船が滝のような飛沫を立てながら前へと進んでいく。手で漕ぐような速さではなく、まるで駿馬の疾駆のそれに近い速度であった。魂を後ろへ引き剥がされるかのような真新しい感触に耐えながら、アダンは必死に杖を制御して、怒鳴り散らす。

「なななななっ、なんじゃこりゃああああっ!?!?」
「フハハハハハッ!!凄まじい火力だっ!最高じゃないかあああ!!きっと飛龍よりも速いぞおおっ!!」
「あんたなんてものを開発してくれたんだ、この馬鹿ぁぁっ!!!」

 肺活量を最大限に生かす罵声も、今日の天気のような高笑いを零すチェスターには届かない。そもそもこの速度で届いているかどうか怪しい。言葉も唸りも、鼓膜を揺らしながら後ろへあっという間に消えていく。船首が掻き分ける水が豪雨のような飛沫となって二人の顔を濡らしていく。針のような鋭さであり、目も碌に開けていられない。手から伝わる振動は人を超越する膂力を持つドワーフの心胆を寒くさせる程度のものだ。業火のような炎が宝玉から断続的に続き、それが推進剤となって船を前へと押しやっているのだ。
 勢い盛んに進む船は、石橋の下を風の如き速さで潜り抜け、其処をゆっくりと歩いていたハボックに大量の水飛沫をぶっかけた。祭事ゆえに届出を提出して休日を貰ってお気に入りの私服、水色のチュニックと黒革のベルトを身に着けていたのだが、すっかりと水分を吸って皺を作っている。ぼたぼたと髪から水滴を垂らし、ぽつりと呟く。

「・・・此処を、セラムを何だと思っているんだ・・・」

 清らかな小川を轟音と炎と共に駆け抜ける小船の存在は、余りにも時代を感じさせぬ、極めて不可思議な光景である。その光景は聖鐘の高みから良く見えるものであった。 

「・・・・・・なんですか、あれ」
「なんで中世な街中でボートレースが出来るんですかねぇ・・・」

 呆気に取られる中年の騎士と最早何もいえぬ慧卓の表情は、言葉に出来ぬほどだ。強いて言うならそれは、人々の憐憫を否応も無く誘うような、いたく微妙な表情といえるのであった。小川に近き場所で爆走する小船を見た市井の者達も、同じような顔を貼り付けるのであった。
 ボートは水路の真ん中を絶え間なく進む。杖を握るうちにそのこつを掴んできたか、船首が被る波が俄かに小さなものとなっていた。お陰で飛沫の鋭さは大分和らいでおり、視界が狭窄に悩むような事が無くなった。その代わりとして彼はより物騒な蠢きを捉える。差し掛かった内壁の水門の上に幾十人
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ