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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の3:サバイバル、オンボート
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「ちっ、逃がすかよっ!!」

 ユミルは歯噛みするように呟き、ビーラが消えた路地裏に差し掛かる。三角飛びの要領で壁をたんと蹴り、疾駆の勢いを殺さずにビーラの後を追わんと走っていく。
 たんたんと石畳を叩く音が二つ、後背から消えていくのを感じてチェスターは振り向きもせずに問う。

「撒いたか!?」
「・・・もっとストーカー気質の奴等は来てるけどな!!」
『止まれぇぇっ!!この反逆者ぁあああ!!』

 轟くような蛮声に驚きは無いが苛立ちは沸いた。明らかな憲兵の粗野な声であったからだ。チェスターはそれに対して足を速めるという返しを選ぶ。

「こっちだ!」

 建物の間にある細道へとチェスターは入り、アダンもそれに続いていく。建物の壁に幾本もの木の柱が立て掛けられていた。幾本は小船の舵に使うであろう舵櫂のためか、また幾本は不測の事態に対する予備のためか。何れにせよ小川は益々に近くなっている。これ以上憲兵を近づけさせては拙い。
 アダンは足を止めて踵を返し、柱の一本を掴み取るとそれを憲兵達目掛けて真っ直ぐに投げつけ、同時に憲兵目掛けて疾駆していく。細道ゆえに憲兵達は慌てて足を止め、身体を目一杯に壁に押し付ける。二人の間を柱が通過し、二秒も経たない内に両者の側頭部にアダンのラリアットが衝突した。

「ぶごっぉぉ!」
「あがああっ!!」

 くぐもった悲鳴と共に憲兵は伏して気を失う。柱が地に落ちてがらがらと音を立てるのを他所に、アダンは再びチェスターの下へ向かい始めた。
 真上から西へ傾く陽射。建物の影が俄かに形を変えており、アダンは建物の隙間より、朝であってはありえないであろうより深い位置から光を視認し、其処へ身体を浴びせていった。きらりと反射する小川の光。其処へ築かれた小さな桟橋に小船が停泊しており、チェスターがその船尾に立っていた。

「これだっ!!こいつを動かすぞ!!」
「ま、まさか人力じゃねぇだろうな!?」
「ふ、心配するな。こいつを使う」

 チェスターが指差すのは、小船の船尾に取り付けられた二本の杖であった。先まで携帯していた杖とはまた別のものであるが、宝玉自体に何ら変わりは無い。赤く煌くそれからは勢い良く炎が出るであろう。アダンはこの時点でさっと顔色を変えていた。

「さぁ、激しく動くぞっ!舵取りを任せる!!」
「・・・嗚呼、嫌な予感しかしねぇ」

 アダンが船尾側のベンチに腰を下ろし、備付けられた杖の柄を片手に一本ずつ掴み取る。杖の間にアダンが挟み込まれる状態であり、ボートの櫂を漕ぐような形である。柄半ば辺りが船尾部分に固定されており、ある程度の小回りが利くようであった。
 チェスターは持ってきた杖を床に下ろして身をぐっと沈めると、杖の先端の突起部分を掴む。新緑の中でするような落ち着いた深
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