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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の3:サバイバル、オンボート
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 熊美は弾かれたように、螺旋階段の頂上に居るパウリナに向かって叫ぶ。

「おい娘ぇっ!お前も消火を手伝え!全員焼き鳥になるぞ!」
「えええっ!?で、でもぉ、あたし関係無いですよぉぉ!」
「此処で火を食い止めればお咎め無しだ!!お前が盗賊だという事を黙っていよう、私が保障するっ!!」
「うそっ!?い、いえっさー、頑張ります!!!ほらあんたらっ、さっさと起きろぉ!!焼き豚になっちまうぞ!!」

 パウリナは威勢良く駆け出していき、打ち伏せた者達へと声をかけていく。熊美もまた床に転がるキャビネットを放り投げ、その下に組み敷かれた三人の男達を両手と背に担ぎ上げる。壮年の逞しき身体に鞭打つように、火の手の熱さを肌に感じながら熊美はその足をさっと運んでいった。





 古びれた建物の天井を突き破る、ぼぉっと燃え盛る赤い柱が現れた。人々の悲鳴が建物の林を伝わって聞こえてくるのを尻目に、三者は路地を駆け抜けていく。 

「こっちだっ!!船を用意してある!!」
 
 先頭を走るチェスターは杖を片手に、急ぎ足でその方向へと疾駆する。それぞれの目的を果たした三者は一列となって駆けていく。列の殿を受けるはビーラである。その背に向かって一筋の声が掛けられた。

『ビーラァァっ!!!!』
「ちっ!そう簡単ニ逃げレンか!!」

 ちらりと視線を向ける。怒りの表情を浮かべたユミルの姿が見て取れた。チェスターも同様に視線を向けて、塵の小山を跨ぎながら問うた。

「誰かねアレは!?」
「古い友人ダ!現在職業ストーカー!!」
「つまり変態か!!棟梁、あいつを焼き殺せ!!」
「もう魔力がほとんど無いんだっ!これ以上はポーションを飲まんと撃てない!!」
「ちっ、都合の悪い!!」

 アダンがそう愚痴を零すのを他所に、ビーラは俯き加減の面持ちで数秒、思考の中に沈み込んだ。そしてはっとして顔を上げた時、その面妖な鱗面には一つの決意が浮かんでいた。

「俺ガあいつヲ食い止メル。奴ノ狙いは俺だからナ。皆は先に行ってクレ」
「あれだけに留まらんぞ!!騎士団や憲兵も狙ってくるっ!生き残れる保障など何処にも無いぞ!!」
「無くて元々ダ!頼む、俺の覚悟を信じてクレっ!!」

 爬虫類の瞳、鈍い光を放つ鏃の切っ先のような眼光がチェスターを真っ直ぐに見詰めた。チェスターは何か言おうと口を開きかけ、而して顔を前方へと戻した。それが彼なりの合意であると、ビーラは確信する。

「っ!チェスター、アダン、生きてまた会オウ!!」
「当たり前だっ!!」
「てめぇの取り分ちゃんと持ってるからなっ!!」

 懐の貴金属の重みをアダンは伝え、ビーラは一つ強く頷く。そして通りかけた別の路地裏へと曲り、その姿を薄暗闇の世界へと消そうと疾駆していく。


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