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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の3:サバイバル、オンボート
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ますし」
「ちょっと、ケイタク殿・・・もう少し御自愛してもらわないと・・・」
「今は動きたい気分なんだ。皆責務を全うしているのに俺だけ格好悪いまんまだし。せめて最後くらいは格好つけさせてよ」

 尻についた汚れを落とそうとぱっと払った時、慧卓の顔が思わず歪んでしまう。聖鐘に打ちつけた際の痛みがひりひりと皮膚に思い起こされたらしい。ミルカは溜息を吐く。

「・・・はぁ。仕方ありませんね。私も付き合います」
「うっし!流石話が分かるぅー!副官マジ最高ぅー!」
「大丈夫なの?警護任務は」
「ええ。聖鐘騎士団の副団長と事件の経緯について話をつけてあります。後始末は聖鐘騎士団が責任を持って見てくれるそうなので、警護任務は実質解かれたようなものですよ」
「・・・そう。なら私も残るわ。力仕事に手を貸せそうだからね」
「お疲れ様です、熊美さん。・・・んじゃパウリナさん、いきましょか」
「は、はい・・・」

 パウリナは一つ頷いて慧卓達に付いて行こうとする。熊美がそれを見て小さく笑み、踵を返していく。その背中を見てパウリナは立ち止まり、声を掛けた。 

「あ、あの!!」
「ん?」
「・・・有難う御座いました!」

 ばっと頭を垂れて礼を述べる。盗賊としての身分を隠してもらった恩義だけに留まらぬ、純真な謝意を篭めた礼である。熊美はそれを受け取って皺の入った頬を緩めた。

「・・・ふふ。早く行きなさい」
「は、はいっ!!」

 足を止めていてくれた慧卓達に追い付くために、パウリナは急ぎ足で向かっていった。騎士の一人が熊美に近寄ってにやりと言う。

「中々女誑しですな、クマ殿。お人が悪い」
「よせよせ。私はもうそんな欲張りではないよ。・・・さて、仕事に取り掛かるかな」
「はっ!御案内します、此方です」

 兵士の威勢の良い声に表情を引き締めて熊美は足を進ませる。眩いばかりの紅の空から危難の発生を告げる噴煙を断ち切るために、熊美は勇ましく王都の街中を歩いていく。
 慧卓達もまた赤く染まった内縁部の街並みを歩く。慧卓は問う。

「で、一体どんな人なの、探し人って」
「肝っ玉の女房の尻に敷かれていそうな、がたいの良い大男ですっ」
「・・・ふ、ふーん。そうなの」

 妙に熱の篭ったパウリナの口調、思いの外親近感が沸きそうな探し人に戸惑う慧卓。ふわっと込み上げた欠伸を閉口して噛み殺し、慧卓はぼんやりと空を見上げる。茜色の空は昼間に見た剣呑な炎よりも尚赤い、まるで身体に流れる血流のような赤を帯びて空を広々と飾っていた。 


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