暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の3:サバイバル、オンボート
[2/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
。キャビネットの下敷きとなったままの兵達が苦しそうなのが哀れである。そう思っていると、今度は二階から発生する惨憺たる破壊音にびくりと怯えて、パウリナはそれに向かって戦慄の視線を移した。
 辛うじての秩序を保っていた宝物庫の二階が凄まじい速度で荒らされている。アダンが近くのものを掴み取っては投擲し、或いは倒壊させて道を妨げていく。それに呼応するように熊美は飛来するものを丁寧に裁断しては、倒れたキャビネットやチェストを跨ぎ、踏みしめて接近していく。二人の乱暴の後には、その価値を古びれた下着並に落とした塵屑の小山だけが積もっていた。思い入れの強き職人が見たら憤慨の余り目を飛ばしそうな野蛮な光景である。
 アダンは花瓶を投げつけると奥の部屋へと消えていく。熊美はそれを追わんと駆け出し、中に入った途端に目の前を通過する鉄斧に瞠目する。

「っっっおおっ!?」

 壁に深々と突き刺さる刃、それに撒き散る埃の束。矢張り膂力は凄まじいものであるようだ。熊美は半ば武器庫同然となった室内にてアダンと相対する。
 先に動いたのは熊美であった。

「はぁっ!!」

 詰め寄っての袈裟懸けの一振り。アダンは横へのステップでそれを避け、背についた武器棚からナイフをむんずと掴み取る。熊美ははっとした面持ちで仰け反り、その顎の近くをナイフが勢い良く通過した。先までの得物とは切れも伸びも全く違う。これこそがアダンの真の得物か。
 密室内において刃物で斬り合う以上、リーチが長いと却って不便である。熊美は剣をアダンに投げつけながら急ぎ屋内を探し回る。後背から迫るアダンの殺気をひしひしと感じながら熊美は小刀を見付けてそれを取り、振り向き様に二度左右に振り抜いて、腕を伸ばしたアダンを牽制する。

「うっほ!?」

 腕先に俄かに感じた鋭さにアダンは声を漏らして足を止める。両者は蜂のような視線で見詰め合い、攻撃の隙を窺おうとフェイントを入れながらナイフを繰り出していく。
 両者の意図はいたく簡易なものであり、それが故に躊躇いのないものだ。アダンにとっては己に対して膂力で劣るも速さで勝る熊美に、得意の得物であろう剣類を使わせぬがための行動。即ち己の得意とする閉所という戦場へと引き摺り出し、ドワーフの膂力を小さな一刀に込めて熊美の速さを殺そうという魂胆だ。一撃当たれば必ず致命傷となるだけの威力が、アダンの振るナイフに込められていた。
 対する熊美にとっては、例え相手の戦場という不利な状況に突入しようと、その利を覆せるほどの技量が己にあり、そして余裕があると確信していた。山賊団との戦と騎士達の鍛錬において既に戦士としての勘を取り戻している。更にいえば、もう直ぐにでも援軍の兵が此処に来るであろう。そう考えるとなれば敵対する強敵をもっと消耗させるべきだと熊美は考え、敢えて不利
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ