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Ball Driver
第六話 化学部の佳杜
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「あ、あぁ……」

女の子はほぼ突き返すように服を差し出した。その服は、あろうことか真っ白だった。どうやら汚れだけでなく元の色も落としてしまったらしい。何しやがってんだよ!と叫びたい気持ちをぐっとこらえて、権城はその服を受け取った。押しかけて洗わせておいて、文句まで言うのはさすがに気が引けた。相手がこんな無愛想な女の子だし。

「!ねぇ、君」
「はい?」
「名前は?」
「……中等科3年の、仁地佳杜」

服を受け取る時、女の子の手を見た権城は、唐突に名前を聞いた。女の子は、訝しげな顔をしながら答えた。

「ありがとう、仁地佳杜。助かった。」

相当にぎこちない笑みを見せて、そそくさと権城は部室から出て行く。佳杜はその後ろ姿を、メガネの奥の目を不審そうに細めて見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「仁地佳杜かぁ……」

日も暮れてきたクラブ棟の廊下を歩きながら、権城はつぶやく。その脳裏によぎるのは、つい先ほど見た佳杜の手のひらだった。

(やたらめったら、マメができてたよな。もしかしたらあいつ、めっちゃバット振ってたりするのか?て事は野球してるって事になるけど。)

すっかり色が落ち切ったアルビノ服を脇に抱えながら、権城は寮に戻っていく。
時間や服や、色んなモノを失った一日だったはずなのに、何故かそれほど、今は悪い気はしてなかった。






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