第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
四十六話 月の軌跡 後編
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月の都の中心地に立つ新王宮。そこから東側に少し離れた場所に立つ十階建ての広い敷地を持つ白い建物が永琳個人が所有する研究施設。
その研究施設には数名の警備員と十数人の職員、そして永琳を師とする数名の助手兼弟子達が勤務しており日夜様々な研究・実験を行っていた。
地上で永琳が教鞭を取っていた輝夜、豊姫、依姫の三人も形式上は弟子として周囲に認識されている。しかし実際勤務しているのは豊姫のみで依姫は父である庵と迦具土から警備隊の隊長職を譲られた為研究職から離れていた。
そして輝夜は偶に研究施設に顔を出し何をする訳でもなく只他の職員達の作業を眺めているだけ。日々を無為にそして無気力に過ごしていた。
施設の廊下を歩く一人の少女。
腰よりも長い癖の無い艶やかな黒髪、桃色で広袖になっている着物風のブラウスと足元まである赤いロングスカートを身に纏い何処と無く気品を感じさせる。
月で絶世と評される美貌を持つ彼女の名は蓬莱山 輝夜。時の流れの中で幼さは消え見目麗しい女性へと成長していた。
父である劉禅等からは今は亡き母に良く似ていると言われその評価は母を愛していた輝夜にとって最大の賛辞でもある。
すれ違う職員や警備員達は輝夜の姿を目にすると作業や歩みを止め慇懃に頭を下げ礼を取っているが当の輝夜はそんな彼等に視線を合わせる事も無く目的地を向け黙々と歩を進める。
正直今の彼女は他人に愛想を振りまけるほど心に余裕が無いのだ。理由の一つが会いたくも無い相手からの呼び出しである。
名目上、師となっている永琳から劉禅を通して研究所に出頭するよう呼び出しがかかったのは昨日の事。本当なら突っぱねたい所なのだが劉禅からも少しは家から出た方がいいと進められた為渋々此処に来る事になった。
施設の最上階にある所長室、研究所の一室であるのだが実質永琳の私室と化していた。永琳は家にはあまり帰らず殆どを此処で過ごしているのだ。鈴音を慕っている輝夜からすれば母が居る家にも帰らずこんな所で引き篭もっている永琳の気が知れない、と言うのが正直な感想だった。
ドアの横に設置されているインターホンを押すと返事も無くドアのロックが解除されスライドした。
一室と表現したが実際は最上階の半分が一部屋に繋がっており入ってすぐの事務所の様な部屋を覗けば残りは永琳のプライベートルームになっているらしい。
そしてその部屋の一つには月中から掻き集められた虚空に関する全ての資料・映像データ・画像データがあるらしい。
永琳が拘束を解かれて最初に始めた事はまずその虚空の遺品とも呼べる資料の収集だった。その行為は異常なほど徹底され庵がもつ写真さえ押収したのだ。その為虚空に関する情報が此処にしか存在しなくなった為月生まれの子供達は英雄譚で語られる虚空の容姿を慰霊
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