第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
四十六話 月の軌跡 後編
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いの。もう一つは……貴女自身を被験者にしてしまえば告げ口出来ないでしょう?そして―――――――」
永琳は唐突に踏み付けていた足をどかした。そして開放された輝夜が永琳を見上げると―――――――先程までとは打って変わった――――――狂色に染まっていた瞳を悲しみの色に変えた永琳が輝夜を真っ直ぐに見つめていた。
「―――――貴女と私は同じだから…………記憶に苛まれるのは辛いわよね」
「〜〜ッ!!!」
月に移住し手に入れた不老長寿。だがそこで発生した異常は出生率の壊滅的低下だけではなかった。
―――――“思い出を忘れられない”
人は忘れる生き物だ、と誰かが言った。それは何故か?簡単な事だ人の人生には限りがある。新しい事を受け入れる為には古い事を少しづつ消去していかねばならない。
ならばその人生の終点が無くなればどうなるのか?答えは簡単に現れた、色褪せず消えない。
記憶が、思い出が風化しない。言葉で聞けば素敵な事であろう、その記憶や思い出が幸せな事であれば。
大半の月の民達にとってはこの問題は問題ですら無いのだが月への撤退戦で家族・友人・想い人を亡くした者達は例外無く数百年経った今でも相手の事を、姿も声もはっきりと思い出せるのだ。ある意味で幸せでありある意味で途轍もなく残酷な不老長寿の恩恵。
共に居た幸せな時間と失った時の深い心の痛みを今でも繰り返しているのだ――――――――
輝夜の不幸は最後の記憶があまりにも辛く苦しいもので有った事だ。父との思い出も亡き母の姿も地上での出来事もはっきり思い出せる。そしてそれ以上にあの時の痛みが、苦しみが強力なのだ。輝夜は虚空の事を出来うる限り思い出したくない為永琳にも鈴音にも極力合わないようにしていた。そんな事をしても意味などないと理解していても―――――――
「この実験が成功すればその苦しみから解放される――――――輝夜貴女は私に協力するしか道は無いのよ」
「…………この……くされアマッ!!!」
全ての逃げ道を塞がれた輝夜に出来る事は目の前に居る全ての元凶に対し口汚く罵り事だけだった。そしてここから永琳と輝夜の歪な関係が培われ、そして無意味で無駄な世界の真理への挑戦の日々が始まるのだった。
何故無意味で無駄なのか?
それこそが彼女達の一番の幸運にして不幸―――――――何故なら虚空は地上で生き抜いており未だ世界の情報には保管されていないのだから……
仮に世界の真理に届いたとしてもそこには彼女達の望むものは無いのだから……
そして気の遠くなるほど時間が過ぎ運命の糸は再び絡み始める……それぞれ思い出の中の人物とは色合いを変えて――――――――
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