第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
四十六話 月の軌跡 後編
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公園の銅像でしか知らないのだ。
まぁ今はもう亡き英雄の姿など想像の中で描けばいい、と輝夜は思っていた。逆にはっきりと憶えている事の方が苦しいのだと……
部屋の隅に置かれているデスクでは永琳が机の上に映し出されているホログラム画面と向き合いコンソールを指で叩きながら何かを打ち込んでいた。
髪はストレートに下ろされており小柄な眼鏡を掛け、紫色のスーツの上に少し汚れが目立つ白衣を羽織っている。
何を熱心にやっているのか、と考えたがどうせ解る訳も無いと思い輝夜は永琳に声もかけず近づいて行く。
「態々お呼び出しして申し訳ありません、姫様」
永琳は輝夜に視線を向けることも無く作業を続けながらそう声をかける。当の輝夜は永琳のそんな対応にさほどの興味も抱かずそのまま部屋の中に置かれていた一人掛けのソファーに腰を下ろす。
「……わたしに何の用があるっていうのよ、永琳」
ソファーに備え付けられていた肘掛に身体を預けながら輝夜は永琳に疑問を投げかける。質問された永琳は作業の手を止め部屋の奥の流しに向かい茶器でお茶を入れながら質問に答えるように口を開いた。
「実はある実験で必要な薬の製造の為に姫様の御協力を仰ぎたいのです」
「……わたしの協力?もしかして能力の事?」
「はい、姫様の『永遠と須臾を操る程度の能力 』がどうしても必要なのですよ」
永琳はそう言いながら紅茶の入ったカップを輝夜に手渡し向かい合わせに置いてあったソファーに腰を下ろした。
『永遠と須臾を操る程度の能力 』――――輝夜が月に来てから発現した力である。
“永遠”とは終わりが無くそして不変・不動の事。不変・不動と言う事は変化する事もさせる事も出来ず絶対不干渉の世界。絶対の白であり無限の黒でもある。
“須臾”とは刹那と呼ばれる時間よりも短く認識不能な時間の名称。数字にすると一千兆分の一程の時間となる。ちなみに輝夜はこの須臾と言う一瞬を何回も繰り返す事で生まれる“一瞬の集合体”という他者から絶対に認識されない世界を自由に動き回る事が出来るようになる。
“変化の拒絶と極限の加速”を操ると言う破格の能力ではあるのだが幾つか欠点がある。
一つは非常に燃費が悪い事。一般的に空間や世界に干渉する能力ほど力の消耗が激しい、と言われている。永琳の研究と考察によると、
『“この世界”には修正力というものが働いている。能力での変化は“この世界”にとって異物である為どんな些細な変化でもその修正力の影響を受けている。それ故に変化の規模が大きくなればなるほど、複雑になればなるほど“この世界”抵抗を受ける為に使う力が大きくなるのだろう。その事から考えると“この世界”というのは意思を持った存在な
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